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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.145
    by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成23年5月27日

            原発敗戦を資産化する方法

 3・11フクシマ以来、未だに全く議論されていない盲点が1つある。それに気がつくと原発問題を自然に解決する道筋が見えてくる。

 その盲点とは、「東電以外の電力会社で重大な原発事故が起きたらどうなるの?」という疑問である。

 東電だから政府は「事業会社に第1義的責任がある」として事故対応を丸投げした。ほかの8電力会社(原発を持たない沖縄を除く)だったらそうはいかないはずだ。

 東電は1社だけ突出した大企業である。大学の世界でいえば東京大学のようなものだ。
 分かりやすく年間売上げをざっとの数字で比べてみると、東京電力が5兆円強で飛び抜けており、京都大、名古屋大にあたる関西電力、中部電力は東電の約半分、続く東北、九州、中国の3社がそのまた半分の1兆円台であり、ボトムの北海道、四国、北陸の3社は東電の1割程度にすぎない。

 さあどうだろうか。社内に原子力技術者3千人を抱える東電でさえ、あのていたらくで、世界中を不安に陥れている(現在進行形)。また東電だからこそ、良くも悪しくも政府と対等に張り合いながら事故処理にあたっている。

 他の8社ではとても手に負えるものではないだろう。フクシマ以前であれば東電が大量の技術者を派遣して対応にあたるというシナリオを描けたが、もはや東電も他社の応援に人を出す余裕はない。向こう10年か20年は事故処理と廃炉に全力を挙げるしかないからだ。

 そうなると、どこかの原発が重大事故を起こした場合、政府は即座にすべてを公的管理下に置く(テイクオーバー)しかないと判断するだろう。

 その場合の法的根拠と、実際に投入される専門家集団を、予め用意しておかなければならない。

 中部電力の浜岡原発が政府の要請で運転を止めたが、安全のために止めるのと地震で自動停止するのとでは危険性に大きな差は出ない。
 なぜなら燃料棒を引き抜いたあと数年間かけて冷却プールで冷やし続けるので、そこに地震・津波が襲えば危険性はほとんど同じだからだ。

 実際、福島第1では運転休止していた4号炉も運転中の1〜3号炉も危険性は同じだった。いや、4号炉がいちばん危険性が高いという見方さえある。
 その理由は、数千本の発熱する燃料棒を収容した巨大なプールが、原子炉建屋の最上部に設置されているからである。シロウトが見ても危なっかしい設計だ。

 原発は運転停止させたとしてもすぐ危険性は減少しない。したがって政府が原発事故対応の緊急支援隊を準備することが、正しい道筋の第1歩なのである。

 フランスではもともとすべての原発が国有で、緊急時の体制も整備されていると聞くが実態は不明だ。国策会社のアレバは女性社長が2度来日して技術協力を申し入れた。特に大量の汚染水の処理が得意だと自賛したが、まだ何も送られてきていないようだ。
 やはり即応体制にはないのだろう。

 アメリカはシーバーフ(化学生物事態対処部隊)として知られる海兵隊の派遣を強く申し入れ、約150人が横田基地に飛んできて待機していたが、すでに帰国した。部隊名称から主な任務は有毒物除染だと思われる。

 日本の場合、緊急支援隊は原発事故に即応してすべての作業を指揮主導する必要がある。そのためには数百人の隊員が常時、国内原発の設計図と現場を把握し、順番に原子炉の操業にも参加して実地の知識と経験を蓄積しておく。

 そして非常勤の予備隊員として東芝、日立、三菱重工などのメーカーに参加を求め、いつでも千人規模の応援を集められるように訓練しておく。

 原発事故はなくならない。必ずどこかで起きる。日本ではないかもしれない。その時に日本の緊急支援隊が直ちに駆けつける。そういう部隊を率先して日本が創る。
 
 それが敗戦の「資産化」ということである。簡単に言うと、「次は負けない」という固い意志と体制整備である。

 絶対安全というマインドコントロールが一気に吹き飛んだ今、逆にチャンスが生まれたと考えるべきだろう。この好機を逃さず世界一の緊急支援隊を生み出し、何年かかってもいいから国民の信頼を徐々に獲得していく。
 そうすれば結果として原発を好意的に見直す世論が多数になっていくだろう。

 前途遼遠のようだがスタートは今でなければならない。稼働原発がこれ以上減ると、1〜2年で日本は途上国なみの電力不足国になってしまう。日本の衰退がさらに加速されることは確実だ。

 鉄は熱いうちに打て。(おおいそ・まさよし 2011/05/27)


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