title.jpg
国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.148
    by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成23年8月27日

         竹島亡国の韓国、反原発亡国の日本

 奇妙なことに韓国と日本が衰亡に向かって全力疾走を始めたようだ。
 日本の原発事故が生んだ新しい政治状況は、分かりやすいので後回しにしよう。

 韓国は竹島を日本から盗んでますます囲い込むのみ、という亡国の道に突入した。なぜ亡国かというと、中国が北朝鮮をそっくり盗み取るのを見ないフリしているからである。

 すなわち韓国は中国の圧力に抵抗し得ないため、故意に竹島(彼らのいうトクド)を国益擁護の象徴に祭り上げ、そうすればするほど日本を仮想敵国として認識し、同時に中国への牽制カードを失うことになっている。

 「日本あっての韓国」という彼ら自身にとって有益な自己認識は、もうほとんど失なわれたのではないかと思われる。

 人の住めない小さな岩礁に国運を賭け、巨額の国費を投じて基地化し、観光地化し、さらに数家族が住めるように居住地化しつつある。また同島防衛のため近くに海上基地を建設する計画を推進している。

 韓国の言い分を検証しようとして今月初め、自民党国会議員3人と大学教授1人が訪韓したが、空港で追い返されるという事態が起きた。なんとも異常な外交感覚だが、そう思わないまでに韓国民は盲目になってしまったのである。

 それほど大事な岩礁を日本から「取り返した」李承晩・初代大統領は国民的英雄のはずだが、歴代政権も国民も知らん顔をしている。理由は、李氏が日本の敗戦まで亡命者としてハワイで米国の庇護下にあり、米国の都合で選ばれた指導者だったからであろう。

 この点は重要である。北朝鮮の金日成は抗日戦争の輝ける指導者という宣伝と共に独裁政権を樹立した。それが虚構であるにしても、韓国にとっては建国の正統性で後ろめたさを感じざるを得ない。

 その劣等感が裏返って、竹島への情緒的固執(日本に奪われた領土を取り返したぞ)に潜り込んでいくわけである。これは出口のないトンネルだ。

 中国は2002年頃から、歴史上の高句麗が中国中央政権下の地方政権だったと言い始めた。高句麗(BC37〜668年)の最大領土は現在の中国(旧満州)に約3分の2、残りが北朝鮮の全部と韓国北部にまで拡がっていた。
 
 中国は冷戦終結後、中華思想(華夷秩序)に目覚め、歴史上の最大版図を潜在的に自国のものだと認識し始めた。高句麗に関する研究成果はすでに確定し、中国内では急速に既成事実化が進んでいるという。

 北朝鮮の金王朝が終わりかけている現在、次の時代には中国は遠慮なく北を「地方政権」扱いすることが予見されよう。

 したがって韓国は自力でどれだけ独立を保っていけるか、はなはだ心許ない状態に追い込まれていくだろう。

 さて日本はどうか。大震災後5ヵ月の様子を見て、世界の賞賛は潮が引くように消え失せ、「やっぱり落ちていくだけか」という有識者の本音が伝わってくる。

 いうまでもなく、電力が保証されない社会というのは先進国ではない。あえてその道を選ぶというのは先進国化に執拗に反対してきた「反近代」「反国家」イデオロギーである。

 7月13日の菅総理による「原発に依存しない社会」演説は、同じ日に「朝日新聞」が大々的に「脱原発」を、社論として、打ち出したのと呼応するものだった。
 追いかけて8月2日、「毎日新聞」も同じく大々的なキャンペーンで足並を揃えた。

 中道・保守系の日経・読売・産経の3紙は原発存続で一致しているので、これで戦後長い間、「保・革」すなわち保守vs.革新(左翼)で対立していた図式がみごとに再現されたことになる。

 政党では日本共産党と社会民主党が脱原発派で、フクシマ社民党党首は特に「即停止せよ」と連呼する小学生のような非現実政治家である。

 このように左翼勢力を結集させたのは原発事故そのものではなく、事故後の菅直人首相である。後世、左派の書く歴史教科書で、「消えかけていた左翼勢力をよみがえらせたのが唯一の功績」と称えられるだろう。
 
 反原発イデオロギーがターゲットにするのは、当然ながら教育機関と原発地元である。
 最近の世論調査では「即停止」が約1割、「段階的に全廃」が70%ぐらいに達するが、もし数年間これが変わらないなら、日本の未来は真っ暗となろう。

 いや数年間は待てないかもしれない。なぜならば、来年の受験で原子力関係の学科を志望する者が激減するに違いないからだ。将来に夢も希望もない学問を志す日本人が何人いるだろうか。

 原発は即停止でも40年先全廃でも先端科学としての進歩発展を必要とする。それを夢と希望をもって進めなければならない。原発大国日本の専門家集団が自分たちの使命に目覚めることがあるだろうか。

 韓国は出口のないトンネルに入り込んだが、日本は出口を自分で作ることができるのである。
(おおいそ・まさよし 2011/08/27)


コラム一覧に戻る