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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.149
    by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成23年9月29日

        サイバー戦を知れば新冷戦が分かる

 当コラムでは東西冷戦に続く「新冷戦」がとっくに始まっているという認識で一貫している。

 まだ世間一般ではそう受け取っていないかもしれないが、昨年11月のNATO(北大西洋条約機構)首脳会議はサイバー攻撃を「新たな脅威」と位置づけ、今年6月、4年ぶりに開かれた日米安保協議委員会(2プラス2)の共同声明では、「宇宙、公海、サイバー空間などに対する脅威」が明記された。

 米国防総省では重ねて、「外国政府」からのサイバー攻撃を「戦争行為」とみなし、武力による報復も辞さないと異例の警告を発した。

 今月、突然のように明らかにされた三菱重工、川崎重工、IHI(旧石川島播磨)などの中核防衛企業に対するサイバー攻撃は、決して突然だったのではない。

 今回の一連の攻撃は7月に始まり、米国、インド、イスラエルなどの代表的防衛企業も被害にあったと報道されている。

 過去数年、世界各国の政府機関(米CIAを含む)や金融機関、グーグルなどのネットに対する侵入が頻繁に公表されているが、軍事機密をダイレクトに盗む、あるいは破壊工作を目的とするサイバー攻撃は、厳然と区別して考えなければならない。

 ここで、新兵器の登場が世界大戦と裏腹の関係にあることを明示しておこう。

 WWT       戦車、戦闘機、潜水艦、毒ガス
 WWU         空母、長距離爆撃機、大型潜水艦
 WWV(冷戦)   原潜、宇宙(ロケット)、IT(誘導爆撃)
 WWW(新冷戦) ステルス、無人機、ロボット、サイバー

 この分類表を見れば、誰でもいまの世界が平和そのものだとは言えなくなるだろう。

 「必要は発明の母」ということわざは、兵器と戦争にいちばん当てはまるのである。

 いうまでもないことだが、表にある新旧の兵器体系を全部持っているのはアメリカだけである。しかも「新冷戦」兵器体系で突出しているのもアメリカであり、他国の追随を許さない。

 その唯一の超大国に正面から挑戦しているのが中国である。中国は4大戦のすべての兵器システムにおいて明らかに劣勢であるが、それだからこそ、その弱点をサイバー戦で補おうとしているのである。

 中国の空母保有が「公海」に対する脅威となる恐れは強いが、空母を駆使した大海戦は日米決戦の昔にあっただけで、もはや現実的ではない。
 空母より原潜のほうが軍事的には重要だといわれるが、米国はこのシステムでも世界を圧倒している。中国の遠く及ぶところではない。

 だから、現在から未来にかけての主戦場はサイバー空間にならざるを得ない。従来のようなドンパチ戦争になる前に、相手の軍事力を無力化してしまおうという発想である。
 
 また、日本がフクシマ大事故で悪い示唆を与えたように、サイバー攻撃で原発の電源を故障させることができたら、大規模空爆と同じ効果が得られるかもしれない。

 中国は遠大な計画を立て、自前の衛星測位システム「北斗」を展開し始めている。米国のGPSは国防総省が運営する軍事用システムだから、中国としては目の上のタンコブである。

 一刻も早く、中国も軍事用に使える測位システムを構築したいと考えているだろう(現在9基)。それが完成したとき、周辺国に採用するよう軍事的・外交的圧力を加えることになるだろう。
 いったん採用されれば、中国はその国の陸海空すべての交通・通信を事実上支配することになりかねない。
 
 日本は米GPSの精度を補強する準天頂衛星を1基打ち上げて試験中だが、4〜7基運用する「夢」を考慮しても、すべて経済効果(10兆円市場)だけしか眼中にない。
  
 米国はアフガン戦争、イラク戦争の最中から無人機を急速に実用化させた。まさに、必要に迫られたからだった。福島原発の事故状況の把握にも活躍し、中東民主化争乱に対しても大量に新規投入されている。

 逆に日本では、自慢のロボットも事故対策に活用できるものがなく、上空から撮影や温度測定するシステムすら開発していなかった。

 必要に迫られた日本は、これを好機と捉えるべきである。技術は十分に持っている。さらに中国の領土領海要求と米ステルス戦闘機F22・F35の入手困難も、同じように「必要は発明の母」と受け止めることができよう。

 但し、それには日本国民が新冷戦の現実を一日でも早く認識することが前提である。
(おおいそ・まさよし 2011/09/29)


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