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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.152
    by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成23年12月26日

         民主党はいつ竹島放棄を密約したか

 おカネを貸すとき、自分から「ある時払いの催促なしだ」と言えば、その意味は「返さなくていいよ」ということで、借りた方は「もらった、サンキュー」と理解する。

 これと全く同じ形で民主党が竹島を韓国にあげてしまったことが、京都での日韓首脳会談で確認された。

 この疑惑の発端は、昨年4月7日の衆院外務委員会で岡田克也外相が突然、「韓国による不法占拠」という言い方は信念として使っていないと発言、以後は「法的根拠のない形で支配されている」という表現に変えたことである。

 実に異様なことだが、民主党政権は岡田氏に限らず、鳩山、菅、野田の3内閣に亘って首相、外相を始めとするすべての閣僚が同じ表現に固執し、決して「不法占拠」という四字熟語を口にしないのである。

 野党は国会の論戦で何度もこの点を衝き、政権交代までは「不法占拠」が何の躊躇もなく使われ、公式の「政府答弁書でも使われている」と繰り返し責め立てている。
 しかし、民主党の閣僚はかたくなにこの四文字を口にすることを拒否してきた。野田現内閣の法相に至っては「管轄外」だとして答弁自体を逃げ回る始末だ。

 まるで、独裁政権下の政治的タブーのようになっているのが現状である。岡田氏にそのような権限や権威、政治力があるはずはないので、論理的には民主党自体が公式にそのような誓約文書を発しているのだと考えざるを得ない。

 「不法占拠」と「法的根拠がないまま支配」は一見すると同じような意味にとれるが、実は大違いである。
 前者は日本が「不法」と断じていて揺るぎないという立場を示しているのに対し、後者は法的根拠を韓国側に委ねていることになる。つまり判断するのは相手側だと譲歩したのである。

 しかも重大なことは、相手に「いつまでに法的根拠を示せ」という期限を付けていないので、「ある時払いの催促なし」ということで、相手は「もらった、サンキュー」と理解するのは当然だ。

 もう一つ重大な傍証がある。竹島問題は戦後ずっと、日本政府が国際司法裁判所に委ねようと提案しているが韓国が応じない、というように国民に伝わってきた。
 しかしこれも大違いだったのである。

 つい最近の8月末、山谷えり子・自民党参院議員が質問主意書で「竹島の領有権問題について国際司法裁判所への付託を早急にすべきと考えるが、政府の見解を示されたい」と質した。
 政府答弁書に盛られた答はなんと、「引き続き、同問題の平和的解決を図る上で、有効な方策を不断に検討していく考えである」という役所的言い回しで、明らかに否定しているのである。

 この後10月、野田首相は初めての外国訪問先として韓国を選び、日本が奪取したわけでもない宮内庁蔵書の一部を専用機で運んで贈呈した(先方は返還させたと表現)。しかし竹島については一言も触れなかった。

 そして今月、京都に迎えた李明博大統領は、「57分の公式会談のうち45分を慰安婦問題で責め立てた」(韓国メディア)のに対し、野田首相は竹島の「た」も言えず、「日本側が提起している問題」と言っただけで終わった。

 これで疑惑が決定的となった。「日本側が提起している問題」が「竹島を返せ」という意味なら、そう固有名詞を出せばいい。李大統領の非礼極まりない外交攻勢に対しては、竹島という反撃材料が最も効果的なはずだ。
 それを口にできないため、国内向けにあいまいな表現をして、いわばアリバイ工作をしたつもりなのだろう。こういう話芸は野田首相の得意技だ。

 外務省はさすがに同調していないようで、公式HPトップページからワンクリックで「竹島」に飛ぶと、「不法占拠」を強調して繰り返しているのが分かる。

 さあ、民主党はいつ誰に対して誓約書を差し出したのだろうか。

 もし韓国側がへそを曲げて文書をバラしたら、野田政権どころか民主党が消滅することは確実だろう。つまり、生殺与奪のカギを韓国に握られていることになる。

 民主党は他にも、在日韓国系団体に対して「地方参政権付与の約束」をしていると言われ、李大統領も昨年1月、日本との約束があると言明している。

 国を売り渡すような密約が幾つも結ばれ、それを隠すために外相、防衛相、法相、国家公安委員長などの閣僚にシロウトを充てているのかもしれない。
(おおいそ・まさよし 2011/12/26)


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