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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.153
    by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成24年1月21日

         国会議員と公務員は大幅増員が国益

 「鉄の女」サッチャー英国首相が引退後に来日した際、時の橋本龍太郎首相が「私も政治改革を進めていますよ」と自慢そうに語りかけた。褒めてもらうつもりだったのだろうが、彼女は言下に「政治家に政治改革はできません」と切り捨てた。

 実際の会話がどうだったのかは分からないが、ものごとの本質をズバリと衝いたひと言だ。政治家に政治改革はできない。公務員に「自発的」な公務員改革はできない。政治が強制すればできる。

 これが基本的な原則だが、政治家も官僚も触れたくないので忘れたフリをして、衆院比例定数80減と国家公務員の総人件費2割削減という民主党の選挙公約をオモチャにしている。

 それならどうしたらいいのかと訊かれれば(まだ訊かれないが)、民間シンクタンクとして次のように提案したいと考えている。

 まず議員は落選したら議員でなくなるので(猿は木から、、)、よほど再選確実な議員でなければ定数削減に反対するに決まっている。だからこの原理に背く大幅削減など初めからムリ筋だ。

 それに、日本の両院合計722という定数は、世界的に見て多すぎるというほどではない。そこに着目して、国会議員の総人件費を増やさずに、80議席増やして衆参両院に分配するほうが合理的である。もちろん80より少なくてもかまわない。

 それでどうなるかというと、まず議員1人が受け取る給与等の給付額が1割ほど下げられる。不満はあるだろうが、落選するよりはましで、その危険性が軽減されることのメリットを天秤にかければ答は明らかだ。

 次に、これが最も大事なことなのだが、定数を削減すると当選可能性の高い二世議員(三世以上を含む)の率が上がってしまうが、定数を増やせばその逆の効果が期待できるのである。
 
 議員という職を親や親族から受け継ぐのは(同一選挙区世襲でなくても)、既得権の蓄積であることは間違いない。歯科医のこどもが医院を継ぐのと、全く新しく医院を開業するのとどちらが有利か誰にでも分かることだ。

 現在、国会議員の3分の1以上が何らかの意味で二世議員だという。自民党だと4割に達し、民主党でも2割以上のようだ。

 二世議員の既得権は当選回数を重ねるたびに膨れ上がり、大臣の位にたどり着くにも有利となる。自民党最後の麻生内閣では二世議員閣僚が8割以上という異常な高率に達したが、今の野田改造内閣でも3割を軽く超えているようだ。

 これが「政治家の資質」問題の根底に関わることだと思わない人はいないだろう。

 大幅な定数減は既得権をさらに凝縮するが、大幅な定数増は既得権を確実に希薄化する効果がある。

 第3に、定数増を「1票の重さ」の是正、すなわち軽い選挙区に配分すれば、半永久的にこの問題を解決することができる。

 以上のように一石三鳥の効果があるが、公務員の問題にも同じ発想を当てはめることができる。

 民主党が大風呂敷を広げた「国家公務員の総人件費2割削減」も、総人件費をそのまま増やさずに、定数を2割増やすほうが国益に資する。日本の公務員は世界的に見るとかなり少ないほうなので、そこをうまく利用するのである。

 総人件費をそのままにして定数を2割増やせば、1人あたりの給付は約2割減となる。地方公務員は国家公務員よりいろいろな意味で恵まれているので(もちろん民間平均よりずっと)、総人件費を増やさずに定員を3割増やすことにする。1人頭では約3割の給付削減となる。

 それでも定数削減、すなわち職を失うよりはましではないかと誰でも考えるだろう。地方では特に衣食住が比較的楽なはずだ。

 そして第2に、その定数増を職探し中の若い世代と、60歳代の働き盛りに重点的に割り当てるのである。この効果は大きい。

 第3に、これは「ワークシェアリング」を公務員の世界に強制的に取り入れることを意味するが、それによって行政全般の既得権が希薄化されるという効果が期待できる。
 具体的には「既得権の殿堂」大阪市のこれからがヒントになるだろう。

 日本は明治維新と敗戦の2回、すべてをリセットして出直したが、50年、60年を経てまた既得権がローマの遺跡のように積み重なってしまった。

 それが日本の長い低迷の原因ではないかと気がつけば、政治家のあまりのお粗末さ、世界一優秀と言われた官僚の消滅、大物経営者が消えた経済界、など思い当たることがたくさんあるのではないだろうか。

 既得権を一撃でリセットすることは不可能だ。だから巧妙に少しずつ希薄化するしかない。その発想は民間からしか出てこないだろう。(おおいそ・まさよし 2012/01/21)


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