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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.155
    by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成24年3月27日

           問われる防大校長の資質

 昨年11月の当コラム「不合理な賞勲・栄誉群を仕分けせよ」の続きのような話から始めよう。

 今月末に退任する五百籏部真(いおきべ・まこと)防衛大学校長がその11月に「文化功労者」に選ばれ、今月9日に開いた祝賀パーティーには彼を任命した小泉純一郎総理(当時)も駆けつけたという。

 さて、何かおかしくないだろうか。同校長は昨年4月、菅直人首相から東日本大震災復興構想会議議長を委嘱され、6月に繰り上げ答申したあと、何も進展しない状態で手をこまぬいていた。
 2万人近い犠牲者の捜索が続き、数十万の被災者がまだ復興どころではない困窮状態にあるときに、復興構想の責任者がさっさと年金付きの栄誉を受けるというのは、どう理解したらいいのだろうか。

 先憂後楽、、。内示を受けたときに「とてもそんな気にはなれない。復興を見届けるまではいかなる栄誉も受けるわけにはいかない」と辞退するのが日本人ではないだろうか。 
 
 またその前に、これほど重要な歴史的任務を引き受けるなら、あと数ヵ月の防大校長を辞して専任で全力を尽くそうと、なぜ考えなかったのだろうか。

 さらにその前に、同氏は小泉首相の靖国参拝を遠慮なく批判したことを自賛しているが、そういう「反靖国」思想に立つなら、防大校長を打診されても「その任にあらず」と断るのが普通ではないだろうか。靖国神社の由来と存在意義を知らなかったのかもしれない。
 
 小泉内閣メールマガジン(248号)がネットで読めるが、「靖国参拝一つで、どれほどアジア外交を麻痺させ、日本が営々として築いてきた建設的な対外関係を悪化させたことか」「積み立てられた信用という対外資産は、小泉首相が靖国参拝にこだわったことによって、大きく損なわれた」と、典型的な自虐史観で露骨に中国の代弁をしている(06/09/07)。

 反靖国派は、「中国」と言わず、ぼかして「アジア」と言うのが特徴だ。

 毎日新聞(3/18)に寄せた「校長退任にあたって」という一文では、福田康夫氏を「こんなに成熟した外交感覚の持ち主の首相は珍しい」とまで持ち上げている。周知のように福田氏は「相手の嫌がることはやらない」と明言したほどの親中国派で、小泉・安倍政権の成果をちゃぶ台返しにした首相だ。

 福田首相は同じ思想基盤を持つ防大校長を外交の指南役とし、また防大ばかりか防衛省全体の改革に参画させて、自分の意向を浸透させた。組み伏せられた形になった石破茂防衛相(当時)の五百籏部評をぜひ聞いてみたいものだ。

 何をどう改革(?)したのだろうか。

 同校長は毎日紙上で、「月1回全校生に講話」し「学校長ゼミ」まで開講したと自賛する。しかし、その内容はどういうものだったのだろうか。
 「侵略戦争を行ったうえ敗北」(同メルマガ)したことを認め、戦後の「平和的発展主義」を認めてほしいとお願いするのが「成熟した外交感覚」だということか?

 ちなみに「侵略戦争」という漢字熟語を英語にするのは不可能だ。そういう概念がないからで、おそらく自虐日本人による造語であろう。

 こういう校長に5年8ヵ月のあいだ指導された防大(=士官学校)の学生は、将来どういう幹部に育っているだろうか?

 米陸軍士官学校は「使命 Mission」を掲げ、「Duty, Honor, State の三大価値」のために専門を極めるのだと明示している。防大は使命も価値も示していない。

 4月から第九代校長となる国分良成氏には、よくよく反面教師という四字熟語を噛みしめてもらいたい。

 書き落としたが、調べた限りでは、過去7人の防大校長は在任中に勲章等の栄誉を受けておらず、五百籏部氏の恩師にあたる猪木正道氏(第三代校長)が同じ文化功労者に選ばれたのは、退任23年後のことであった(先に勲1等)。(おおいそ・まさよし 2012/03/27)


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