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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.158
    by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成24年6月28日

         日本を壊したムチの実力者・小沢一郎

 小沢一郎・民主党代議士は、自民党の派閥(田中派)分割に始まって、内閣から政党に至るまで壊しまくったことで知られるが、日本国を壊してしまったことはあまり報道されていない。

 知る人ぞ知るが、怖すぎて口にできないという事情もあるようだ。

 それは3年前、2009年9月に政権を奪取して党幹事長に就任し、12月に訪中したことに始まる。初当選のいわゆるチルドレンを中心に、143人もの国会議員を含む6百人以上の大訪中団だった。

 中国の大歓迎に小沢幹事長は意気揚々と、「人民解放軍の野戦司令官でがんばっています」と挨拶したという(ネットでも話題になった)。

 中国側は胡錦濤・国家主席以下、内心、胆を潰したに違いない。これほど破天荒な朝貢儀礼を受けたのは、中国三千年の歴史でも初めてだったであろう。
 何しろ630人近い規模で、そのうち143人が民主主義国の選挙を経た国会議員だ。その政権党の最高実力者がとんでもない卑屈さを堂々と披露して見せたのである。

 一体これは何なんだと、あとで中国指導部は額を寄せ合って考えたに違いない。
 
 実際には翌年の参院選を目指して「陣頭指揮を執っている」と自慢したのだが、人民解放軍が「国軍」ですらなく、中国共産党の軍(=私兵)であることや、野戦軍司令官というのは中央司令部の命令に従う現場主任にすぎないことを知らなかったため、「日本という辺境を支配する中国共産党軍派遣隊の隊長」です、と卑下したことになった。

 分かりやすく他の例も挙げておくと、マッカーサーは何度も辺境の極東(フィリピン)赴任を繰り返す間に、少将と大将の間を行ったり来たりし、加えてフィリピン軍元帥の肩書きを受けている。
 またナチスドイツはやたらに臨時の「野戦元帥」(英語でフィールド・マーシャル)を乱発したことで知られる。軍人の世界でも現場は中央より格下だ。

 小沢幹事長はそこまで日本国を売り渡したため、帰国後すぐに習近平・国家副主席が天皇拝謁を強要した件で、中国側に立って鳩山首相と宮内庁を強引にねじ伏せるしかなかったのである。

 この時、批判した記者に対して、「憲法を読んでるか? 天皇の国事行為は内閣の助言と承認で行われるんだ」とまくし立てた。
 事実は、幹事長の間違いで、賓客の接遇は憲法に定められた国事行為ではなく、単なる公務(皇務?)なので、政府が関知すべきではなかった。

 しかしこれで、小沢隊長が北京で誓った臣従朝貢宣言は、中華の側から見れば証明されたことになった。

 このことが、翌年9月の、尖閣沖漁船体当たり事件につながり、日本の全面敗北を招いたのである。

 小沢民主党の政権があれほど内外に、歴史的に、ハッキリと中国に臣従しますと約束し、天皇拝謁問題でそれを証明したのに、「宗主国の臣民である中国船長を逮捕するとはどういうことだ?!」と中国首脳部は大混乱に陥り、ついで怒り心頭に発したという流れである。

 東西冷戦構造の崩壊後、江沢民・国家主席の時代に、共産党独裁の存在意義は歴史的中華の再興にあるというように大転換した。その見方からすれば、中国は中国で「日本に騙された」と感じ、また国内向けにそう宣伝しなければならないだろうということは想像がつく。

 小沢幹事長が、ついに政権を握って最高実力者となった昂揚感から、中国の歴史も軍事の常識も知らないまま大言壮語し、過剰なリップサービスもしたのだろうということも容易に想像がつく。

 しかし内向きには傲慢、外向けには卑屈を使い分け、中国の威を借りて更に国内を押さえつけよう(特に検察を)、という政治家がどれだけ日本国を壊したか。知れば知るほど背筋が寒くなるだろう。

 小沢氏の無知は筋金入りのようで、かつて自衛隊を国連常備軍として差し出すと提案したことがあり、近年も「抑止力は第7艦隊で十分」と発言している。

 また話題となっている元夫人の離婚報告文によると、原発や放射能についても驚くほど無知無恥で、密かに東京脱出を図ったり書生に塩の買い占めを命じたという。

 そういうムチの人だからこそ、平気で「壊し屋」人生を続けてきたのであろう。願わくば最後に民主党を完全に壊して政治家を卒業してほしいものだ。

 万が一にも次の総選挙を生き抜いて、連立政権の中枢に座ることのないよう、有権者のほうでもムチに陥らない心構えが必要である。(おおいそ・まさよし 2012/06/28)


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