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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.164
    by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成24年11月25日

         異様なクルマ罰金国のTPP開国

 明治維新に立ち会った同時代人で、その後の日本を予想できた人は皆無だろう。完全負け組の幕府方でも、全員がそのままの人生で終わるとは思わなかったであろうし、勝ち組の新政府指導者たちでも、清国や露国と戦って勝つ日本を想像し得なかったであろう。

 そういう意味で開国は、長期的に誰にとっての利益で、誰にとっての不利益であるかは全く分からないのである。
 しかし、開国はやらなければならない。にわかに最大の政治問題になってきた環太平洋経済連携協定(TPP)は、文字通りの開国を要求する外圧である。

 率直に言ってしまえば、米国基準を加盟国に広げようとする米国流国家戦略であって、日本にとっては1989年に宇野内閣が受け入れた「日米構造協議」と、それに続く「年次改革要望書」方式で、とっくに経験済みの流れだ。

 TPPはその総仕上げともいうべきもので、日本が死守してきた国内システムを、全部捨てるよう迫られる段階に来たわけである。

 その根幹はクルマであって、農業ではない。ここがなぜか隠されている。

 実は日本という国全体が、クルマ使用者に対する罰金的課金によって成り立っているのである。
 業界団体によれば「日本の課税は米国の約50倍」と訴えている。ざっと見てみよう。
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自動車にかかる税金(朝日 10/30、今年度)
   購入時にかかる税      9072億円
   所有段階でかかる税  2兆4519億円
   燃料にかかる税      4兆3948億円
               小計  7兆7539億円(消費税含む)

 つまり約8兆円とすると、税収が約42兆円なので、これだけで19%を依存していることになる。この内には取得税と消費税、自動車税と重量税といった二重取りも入っている。
 しかし、これだけではない。使用者にとっては直接の税金ではない出費がもっとかかるのだ。
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税金以外の強制的出費推計
   免許取得費用 新規取得者130万人×平均25万円=3250億円
             (原付除く) 
   車検諸費用   継続3000万台×1年平均2万円=6000億円
             (軽含む)
   高速道路    全国6社の料金収入2兆5000億円
   強制保険・任意保険     プラスアルファー
   車庫証明用車庫費用    プラスアルファー
              小計 3兆4250億円+α

 いうまでもなく、これらにも消費税がかかるか含まれている。この強制的出費は世界に類例のないもので、罰金的といっても過言ではない。

 運転免許取得は世界中でタダではないが、日本のような教習所費用は論外である。車検はない国も多く、あっても形式程度のものだ。高速道路は無料が原則だろう(だからフリーウェイという)。

 この罰金的税金と罰金的出費を合わせると12兆円前後に達し、消費税なら6%相当をクルマ国民から取り上げて、国家が成り立っているわけである。

 このような国が他にあるかどうかを考えてみると、旧ソ連に似たような例が見つかる。
 ソ連の最後の十数年間、財政の大きな部分をアルコールの販売収入が賄っていた。つまり、強いウオッカを国民に売りつけることで、国家が成り立っていたのである。

 ウソのような話だが、本当にそうだったため、ロシア人男性の平均寿命は急速に縮み、なんと57.6歳まで落ちた(1994年)と報告されている。現在でも、ロシアには先進国のような年金問題が生じないと言われるゆえんである(受給する前に死んでしまうから)。

 日本が旧ソ連を笑えないのは、「分かっちゃいるけどやめられない」状態を何十年も続けているからだ。
 今となっては、クルマ・燃料課税を米国基準に合わせるとなると、消費税4%分に近い税収減をどう手当てするか、不可能というしかないだろう。

 それに罰金的出費も世界の常識に合わせるなら、車検官庁や整備業界、教習所などの縮小、失業問題をどうするか、また高速道路の維持をどうするかなど、誰も考えたくない難問に直面する。
 国内販売は上向くだろうが、交通事故や渋滞が増えるというマイナスも考えられる。

 実際には、消費税との二重課税すら解消できないのが現状であって、税収が国家予算の半分にもならない逼迫状態の日本が、自発的にそんな大改革に乗り出せるわけがない。
 だからTPP開国しかないのである。

 クルマひとつとっても、開国でプラスを得る国民とマイナスになる国民に分かれる。しかし、それが永遠に続くことはない。そう割り切るしかないのである。

 ガイアツを利用して開国し、日本再生のエネルギーを生み出す。鉄鋼、造船、家電と基幹産業が次々に沈んだ今、残る最大の業種、それも先端技術の象徴である自動車をどうすべきか、もう自明ではないだろうか。
(おおいそ・まさよし 2012/11/25)


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