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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.166
    by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成25年1月24日

          今や大木となった中韓の中華同盟

 年明け早々、日本政府を驚かせたのは、靖国神社放火を認めている中国人容疑者を、韓国が日本の法的請求を拒否し、中国に送還してしまったことだった。

 韓国は日本など複数の外国と「犯罪人引渡し条約」を結んでおり、日本の請求に応じる義務がある。中国とは同条約を結んでいない。
 これで韓国は、国際条約を平気で破る前例を作ったことになる。

 いよいよもって、次は日韓基本条約を破棄する日が迫ったとみるべきだろう。次期大統領の朴クネ女史はその条約を締結した朴正煕大統領の娘なのだから、新大統領は与党からも反対勢力からも、そういう胆力があるかどうかを試される立場にある。

 また日本は、基本条約を破棄されないように配慮、すなわち自分から譲歩を重ねる外交を余儀なくされるだろう。配慮は当然、弱さとみなされる。今までもそうだった。

 日米両国は、中国の帝国主義的膨張をせき止める必要から、日米韓の同盟関係を強化することばかり考えているが、実は韓国が相手側に寝返ってしまっているので、実態のない戦略だと強く警告したい。

 韓国の中国傾斜は今に始まったことではない。中国が冷戦終結と共に歴史的中華にすり替わった約20年前から、明瞭に付き従ってきた事実がある。

 中国は1992年2月に、尖閣を含む東シナ海と南シナ海を中国領とした領海法を制定したが、韓国は同じ年、日本海を「東海」と直すよう国連に申請している。

 中国の尻馬にすかさず乗って、竹島を含む日本海を取りに出たわけだ。
  
 その3年後の95年、中国は米軍がフィリピンから撤退した空白を衝き、同国が領有権を主張するミスチーフ岩礁を軍事占領し、遠慮なく軍施設を構築しだした。
 それを見ていた韓国は翌年から、それまで放置していた竹島に接岸施設を作り、積極的に構築物を建設し始めた。

 竹島は、日韓両首脳が「現状を変更しない」という明確な合意をして国交正常化しており、韓国の歴代軍人政権はそれをずっと守ってきた。尖閣のように中国側が一方的に棚上げのようなことをつぶやいたのとは全く違う。

 その合意を平気で破ったのは、初代文民政権の金泳三大統領である。金大統領はその暴挙に先立って中国の江沢民国家主席と95年に会談し、「悪ガキ日本をしつけ直してやる」と豪語したことで知られている。

 中韓は20年近く日本の資本と技術を供与され、ようやく自前の国産車を作れるかどうかという時代だった。それを考えると、甦った中華思想の傲慢さに驚かない日本人はいないだろう。

 江沢民が「中華民族の復興」を主導し、その道具として愛国反日を国民に刷り込んだこと、さらに98年に国賓として来日した際、天皇陛下を格下のように扱うなど非礼の限りを尽くしたことは、当コラムで既述した。

 ここで付け加えると、4年後の日韓共催サッカー・ワールドカップで、閉会式に来日した金大中大統領が、同じような非礼をわざと見せつけたことは当時あまり報道されなかった。

 横浜スタジアムの貴賓席に、客人の大統領夫妻が先に、続いて両陛下が進み、4人並んだところで手を振って観客の声援に応えるという段取りになっていた。
 それなのに金大中は自分だけさっさと先に進み、ひとりだけ手を振って観客に声援を促したのである。

 両陛下は観客と同じ立場で大統領に声援を送る、という位置関係に置かれてしまった。これが中華に付き従う「小中華」「事大主義」(大国中華につかえる=日本を貶める)のDNAである。

 5年の任期を終わろうとしている李明博大統領が、任期中の日本の衰退と中国の勃興を目の当たりにして、尻上がりに「小中華」に染まったことは想像に難くない。

 中華思想(華夷秩序)は上下関係で成り立っている。朝鮮半島の政権は夷荻(いてき)の日本とは対等でなく、かならず上に位置しなくてはならないと考える。
 
 李大統領が天皇を露骨に見下す発言をし、日本の抗議文書(総理親書)を受け取らず突き返したことはまだ記憶に新しい。外交上あり得ない非礼であるが、実は144年前にも同じことをやっているので、前近代への本卦還りと言える。

 1868年、明治新政府が国書を李氏朝鮮に送ったところ、受け取りを拒否されたのである。その理由は、「皇や勅の字は中華の皇帝しか使えない」というものだった。

 中華が千年以上前から「天皇」称号に異を唱えていないのに、朝貢国の朝鮮がそういう悪のりをやるという事実を、いま改めて認識しておかなければならない。
 小中華は本中華よりも日本に対して荒っぽく、先走った攻撃に出る性癖がある。親分よりも代貸しが威張ってみせるという構図である。

 これは外国にも分かりやすいが、やっかいなことに中華は「徳が高い」、「倫理的、道徳的に至上」だから上なのであって、下はそれを無条件で受け入れるという建前になっている。
 中韓が執拗に「歴史認識」を日本に要求するのは、そういう意味であるが、これを世界相手に説明するには、中韓が作った悪宣伝を歴史の事実で反証しなければならない。

 特に米国政府、議会、メディアに中華思想の虚構と危険性を分からせ、日米韓同盟が実際には存在しないこと、逆に事実上、中韓による中華同盟が過去20年ですでに大木に育っていることを知らしめることが必要だ。

 韓国の幾つかの世論調査で、仮想敵国は日本という答が圧倒的に多数になったとか、2005年に当時の盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権が、米国に、「日本を仮想敵国と規定」する提案を行ない、呆れられたという報道もある。

 米国は再びアジアに目を向け、官民挙げて中国の動向を研究し始めた。日本は中国に付き従う韓国を研究し、今後の中華同盟の方向を探ることができるはずだ。日米の役割分担である。

 日本が従来通りの「配慮外交」を続けるならば、大木がさらに巨木に育つ責任を、日本が引き受けることになるだろう。
 あと10年、いや5年だろうか。(おおいそ・まさよし 2013/01/24)


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