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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.167
    by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成25年2月25日

           北朝鮮の核に鈍感な日本

 当コラムの前号「今や大木となった中韓の中華同盟」では、日本を見下す華夷秩序の復活と、その正当化が日本に対する歴史認識要求だということを事実で確認した。

 したがって日本が何回、何十回、どれだけ謝罪を繰り返しても、「かれら」が満足して日本と対等の関係に戻ることはないと知るべきである。

 しかし残念ながら、日本国民はまだそういう認識を常識とするまでに至っていない。それどころかまだまだ知らねばならない基本的なことが、一般には知らされないままになっているので、「竹島の日」を契機に幾つかまとめてみた。

 まず第1に、韓国は竹島を実効支配しているにもかかわらず、なぜあんなに熱くなるのかという疑問である。これは日本のメディアが「独立の象徴」だからと軽く解説しているが、実はもっともっと複雑である。

 韓国は日本の敗戦後、米国がハワイ亡命中だった李承晩を連れてきて、初代大統領に据えてスタートさせた国だ。住民たちが闘い取った独立ではない。

 その李承晩も正当に選ばれた大統領でないという負い目があるので、「李ライン」を勝手に引いて竹島を不法に韓国領土とし、日本相手に戦って領土を取り返したという心理的すり替えを企んだ。

 韓国民はこのすり替えには喜んで乗ったが、英雄になろうとした李承晩のことは許せず、彼の手柄にすることを拒否して今日に至っている。

 では誰の手柄ということにするのか? 
 答は「韓国民」の手柄というすり替えで、そのために日本を、全面的に、悪者に仕立てなければならなくなった。
 この無理を押し通すために、歴史の捏造を重ねていくことになる。「もともと朝鮮の領土だったのを、日本が植民地化のハシリとして奪い取った」というのが、韓国で教えられている常識らしい。

 しかし日本が、あしか漁師の貸し下げ願いに応じて島根県に編入したのは1905年1月28日であり、当時日本は帝政ロシアの陸海軍と死に物狂いの消耗戦を繰り広げている最中だった(日本海海戦は同年5月)。
 5年後に韓国併合に至るが、日露戦争に負けるかもしれなかった日本が、植民地獲得の野心を燃やして、手始めに竹島を朝鮮から奪取しようと考えるかどうか。

 中学生でも分かるようなことなのに、韓国民は分かろうとしない。

  次に北朝鮮に関する認識不足に移ろう。北は核開発してアメリカを交渉に引っ張り込もうとしている、とメディアは解説する。その目的は、とにもかくにも「体制保証」を取り付けることだという。

 しかしこれも単純な金王朝存続ということではない。北の言う体制保証とは「北朝鮮だけが半島の正統政権」だという意味である。金王朝三代の存在理由はまさにそこにある、と言えるほど重要な認識だ。

 客観的には北の初代である金日成も、ソ連が連れてきた傀儡(かいらい)大統領だったから、韓国と比べてどちらが正統か競うというものではない。しかし北が抗日戦争に勝利したという正統を主張するのに対し、韓国は反論できないので、心理的には下風に立たされることになる。

 そして核兵器は韓国向けには近すぎて使えないので、むしろ韓国としてはいずれ統一が成った場合に、核を持っていた方が得だと考える。日本に対して一層優位に立てるからだ。

 アメリカや中国、ロシアといった核大国に対して、北が核を使うこともあり得ない。反撃されたら、それで国が消滅することは分かり切っている。脅しにもならない。

 第3に確認したいことは、韓国は金王朝の独裁体制に組み込まれる気はないが、それ以外の統一なら受け入れる可能性が強いということである。それが一層の大国になる道だと期待している。統一朝鮮の人口と、北の安い労働力は大いに魅力だ。

 世界の最貧国レベルの北朝鮮を背負い込むのはゴメンだという計算もあるが、それよりも必要な資金は日本に負わせればいいという変な楽観論が強くなっている。

 日本にカネを出させるためにも、核兵器とミサイルを持っている方がいいということ。すなわち、北の核は、客観的に見れば日本以外の国には向けられていないのである。

 第4に、中国が何を考えているかというと、北朝鮮をすでに中国の支国、すなわち地方政権の1つとみなしている。香港と同じように、直轄ではない属国という扱いだろう。石油などエネルギーのほとんどを供給しているので、いわば「生かさぬよう殺さぬよう」にして、金王朝の終焉を待っている。

 中華思想(華夷秩序)に韓国も従属したので、南北どちらが主導して統一国家になってもかまわない。統一朝鮮は必ず米軍を排除することになると見ており、米軍が駐留する日本との間に緩衝国が存在するのは、むしろ望ましいことだと考えているだろう。

 第5に、これは日本人の大きな盲点だと思われるが、中国や北朝鮮が一貫して不思議なほどの強気を通すのは、彼らが朝鮮戦争で米国に勝ったと信じているからである。この自信はベトナムも共通で、事実、アメリカは朝鮮とベトナムで勝利していない。

 米国の国力と途方もない軍事力を正しく認識しているのは日本だけであって、上の3国と、おそらく韓国も、十分認識していないのである。

 古今東西、「勝った戦争はよい戦争」として歴史に刻まれるが、中国と北朝鮮は自国が「正しいから勝った」と国民に教え込んできた。
 
 日本は「誤った戦争をしたから負けた」と教え込んできた。この違いは大きい。
(おおいそ・まさよし 2013/02/25)
 

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