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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.168
    by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成25年3月24日

         国会決議で国防軍創設できる3条件

 かつて左派勢力が強く、自衛隊違憲論が盛んに叫ばれた時代があった。今は昔となったが、その暴論に対して「自衛隊は現代の検非違使だ」という反論があった。

 「けびいし」というのはいわゆる「令外の官」の1つで、りょうげ、すなわち憲法・基本法である律令(りつりょう)にない役職が、必要に応じて設置されたものだ。後に摂政、関白とか征夷大将軍のように、高位職の多くも日本独自に「発明」されている。

 この伝統は千年も維持され、幕末には勝海舟で有名な「軍艦奉行」や「京都守護職」などが、国家の危急に応じて新設された。徳川家康の定めた幕藩体制自体が令外なので、二重に非常事態の「令外の官」だった。

 もともと律令も令外の官も西暦700年前後に唐の制度を輸入したものだが、国家というものは必要に迫られれば同じことを考えざるを得ない。
 例えばアメリカの憲法は日本と同様、改訂が非常に難しい硬性憲法であるが、本文に手を付けずに、改訂部分を修正ないし付加条項として付け加えるようになっている。

 そればかりか、憲法と関係なく、独立当時には存在しなかった空軍と海兵隊の2軍、対外情報組織のCIA(中央情報局)、DIA(国防情報局)、NSA(国家安全保障局)など、また国内向けのFBI(連邦捜査局)やDEA(麻薬取締局)などの国防・治安組織を、数多く、必要に応じて設置してきた。

 この手法をもっと柔軟に真似したのが、国際連合である。国際法・機構の頂点に位置する国連は、日本の平和真理教信者のメッカみたいなものだが、憲法にあたる憲章に手を付けずに、なんと「執行部5人のうち2人」を入れ替えてしまった。

 つまり、内閣にあたる安保理常任理事国5つのうち2つは、いまだに「ソビエト社会主義共和国連邦」と「中華民国」のままであるのに、実際の議席は「ロシア連邦」と「中華人民共和国」が占めている。

 こういう便法を可能にしたのは「国連総会決議」である。憲章はやはり改訂が困難な「硬性」であるため、時間と手間のかかる改訂を避けて、「総会の決議が憲章本文に優越する」という実例を作ったのである。

 しかも、これは決して初めてでもなければ唯一の例でもない。1956年のスエズ危機に際して、安保理は常任理事国の英仏が当事国なので動けず、総会の決議で国連緊急軍を創設した(停戦監視任務)。
 のちに日本もこの「令外の官」に自衛隊員を派遣し、いわゆる平和維持活動(PKO、正確には活動でなく作戦)に貢献している。

 ついでに言えば、日独などを対象とする「旧敵国」条項もそのまま手つかずだが、1995年12月の総会決議で事実上無効になったとみなされている。

 これら日・米・国連の具体例を見ただけでも、少なくとも3つの条件が充たされれば、憲法(基本法)の条文を議会が乗り越えられることが分かる。国連の例を見れば、立派な国際法であることは明らかだ。
 その条件とは、第1に憲法(基本法)が改訂困難な硬性であること、第2に国の安全に関わる問題であること、そして第3に緊急の必要性に迫られていること、の3つである。

 昨年11月、自由民主党は安倍総裁の下、「憲法を改正して国防軍を設置」という公約を掲げて総選挙に大勝した。首相となった安倍氏は、まず憲法96条の改正規定だけを改正し、国会の発議に両院の3分の2以上必要というのを過半数に改める、という手順を示している。

 しかし、これでは公約を実現するのはいつになるのか全くおぼつかない。中国と韓国による領土野心が火を噴いているのに、期限がない公約は公約に値しない。

 安倍首相は3月17日、防衛大の卒業式で「わが国の領土、領海、領空に対する挑発が続いている」と述べ、「今、そこにある危機」に備えよと訓示した。
 それならば、いま3条件が充たされたのであるから、国会決議によって国防軍の創設を決め、必要な安保関連法をすべて成立させればいいのである。

 危機のほうは、96条改訂、ついで9条改訂という2段階の年月を、待ってはくれない。

 国会決議が憲法条文に優先する事態が、今、そこにある。これは憲法条文の不備を補う行為であって、言い換えれば憲法補完立法である。乱用される心配もない。

 我が国にも「令外の官」という知恵が歴史上、綿々と受け継がれてきた。96条の改正にこだわるのは、その知恵を捨てることを意味するのではないか。
(おおいそ・まさよし 2013/03/24)

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