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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.170
    by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成25年5月27日

         性奴隷はレイプ収容所のウソ応用編

 どういうわけかアメリカは情報工作に弱いという国民性を持っている。つまり、ウソ情報を簡単に信じてしまい、自分の信念として「正義」を振りかざすのである。

 その特性を食いものにする業界が特異な発展を遂げ、実際に戦争を起こさせた実例も幾つかある。

 最近では高木徹氏の『戦争広告代理店』(講談社、2002年)で明かされたとおり、1990年代のユーゴ内戦で、セルビア勢力が「レイプ収容所」でボスニア女性に混血児を産ませ、「民族浄化(エスニック・クレンジング)」を行っているという悪宣伝がいい例だ。
 
 これは劣勢のボスニア側(イスラム教徒)から依頼を受けて、米国の大手情報企業「ルーダー・フィン」社が考え出したウソ物語だった。ちょっと疑問を持てば、ボスニア女性を全部レイプして子を産ませるまで、どこで何年かかるか、費用をどうするのか、およそ荒唐無稽な話だと分かるはずだ。

 しかし「レイプ収容所」と「民族浄化」という新造語のインパクトはすさまじく、米政府は世論に押されてセルビア空爆を断行するに至った。
 
 同じようなことが90-91年のイラクによるクウェート占領・湾岸戦争でも見られた。いわゆる「ナイラ証言」である。

 90年8月2日、イラク軍はわずか1日でクウェート全土を制圧した。その2ヵ月後の10月10日、米首都ワシントンで開かれた有力下院議員の主催する人権集会で、15歳のクウェート少女ナイラが証言し、「イラク兵士が病院に乱入し、多数の新生児を放り出して「インキュベーター」(保育器)を奪っていくのを見た」と訴えたのだ。

 ちょっと考えれば、それはおかしいと気づく。実際、そう気づいた米ジャーナリストが後にウソを暴いている。

 イラク兵士が略奪するなら銀行や商店を狙うはず。病院を襲うなら野戦に必要な薬品類が目的だろう。「インキュベーター」が目的なわけがない。それに目撃者の少女はどうやって無事にアメリカに来られたのか不審だ。

 しかし「新生児が放り出されて(殺された)」と、いたいけな少女が涙ながらに語るのがミソで、米国民は簡単に動かされてしまったのである。

 この演出をすべて引き受けたのは大手情報企業の「ヒル・アンド・ノールトン」社で、依頼者はクウェート政府、少女はクウェート首長の一族である「駐米大使の娘」だった。

 もちろんブッシュ(父)大統領などの米政府幹部は知っていただろうが、知らんぷりをして、世論に押される形で多国籍軍の形成を進め、翌年1月のクウェート奪還作戦に結びつけたのである。

 さかのぼれば、まだそうした企業のない時代、日本もひどい目に遭っている。1937年10月4日、有名な写真週刊誌『LIFE』(ライフ)に、日本軍が空爆した上海南駅の線路上で、ひとりポツンと座って泣き叫ぶ幼児の写真が掲載された。

 幼児は焼けこげたように薄黒く、周囲はどういうわけか白くとんでいて、その対比が実に見事な写真である。

 あまりの出来の良さに我慢できなくなったカメラマンが2ヵ月後、『LOOK』誌上で、どうやって撮影したかを自画自賛してしまった。助手が幼児を抱えて運ぶ姿まで公開している。
 つまり戦場スナップのように見せかけて、実は駅構内をスタジオにして凝った演出を成功させたのだった。

 これは蒋介石一家と親しかったオーナーのヘンリー・ルースが、対日開戦に慎重なルーズベルト大統領に不満で、国内世論を動かして開戦させようと意図した情報操作だった。
 アメリカでは、この写真は国民を決定的に反日に動かした実例として扱われ、今でもマイナス評価ではない。
 
 情報眼のある人は、この3つの事例から、カギは女性とこどもだと気がつくだろう。女の子なら理想的だ。「かわいそうに、、」という感情に訴える道具として最適だからだ。

 いわゆる「慰安婦」問題は、米国でこのセオリー通りに進められてきた。「性奴隷」という新造語は、発想がなんと「レイプ収容所」と似通っていることか。
 
 さらに恐ろしいことに、慰安婦は少女だったというイメージが、意図的に作られてきた。ソウルの日本大使館前の歩道に据えられた慰安婦像も少女だし、米ニュージャージー州やニューヨーク州で設置・計画されている慰霊碑なども、いたいけな少女のイメージで作られている。
 自分で慰安婦だったと名乗り、日本政府を糾弾している韓国人老女のひとりは、「11歳のとき日本兵に強制連行された」と訴えている。

 「まさかね、、」というのが現代人の常識だが、それが通じないのが情報戦の世界なのである。
 知日派、親日家として知られるアーミテージ元国務副長官や、ナイ・ハーバード大教授(元国防次官補)、日本政治を知り尽くしたカーチス・コロンビア大教授などが、信じられないほど簡単にウソ情報を信じ込んでいることが分かってきた。

 おそらく有能な大手情報企業が動いていると推測すべきだろう。依頼者は在米コリアンの組織であり、巨額資金の出所は韓国の官民(有名巨大企業など)であろう。
 さらに手足として、250万人といわれる在米コリアンが活動する。

 この世界は、地方政治しか知らない日本の政治家が手を出して勝てる世界ではない。もうすでに、9割がた勝負はついていて、日本の負けは挽回しがたいのではないだろうか。

 今のところ、「ヒラリー・クリントン長官が国務省では慰安婦でなく性奴隷と呼ぶよう指示した」という情報が事実でなかった(報道官が否定した)ことが、かろうじて救いになっている。韓国筋の流したウソ情報だが、すでに米議会などでも事実として受け取られていた。 

 もう手遅れかもしれないが、日本も同じ土俵に上らなければ、先の展望は開けない。中国はもっと巧妙に、世界的な規模で、対日謀略戦争を展開している。

 武士道精神の日本が最も苦手とする分野ではあるが、専門家がいないわけではない。政府が組織を作り、米情報企業も使うことでようやく対抗できる可能性が出てくる。
 古典的な諜報よりコマーシャル・インテリジェンスに敗北する愚は避けたい。
(おおいそ・まさよし 2013/05/27)


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