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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.177
    by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成25年12月27日

          沖縄の尖閣化を跳ね返す根本的認識

 来年2014年は、沖縄が大問題となる。辺野古沿岸の埋め立てに知事が同意したため、左翼勢力の攻撃目標がこれで決定的となったからである。

 戦後の歴史で「革新勢力」とか「リベラル」と呼ばれてきた左派は、「原発全廃」で息を吹き返し、今年後半の「特定秘密保護法案」攻撃で安倍政権の支持率急減に成功した。次の辺野古埋め立て反対で「安倍攻め三本の矢」が揃うことになる。

 本来、世界一危険な米軍普天間飛行場を移転させるという合意が、「新たな基地を造らせない」「沿岸の環境を破壊するな」という矛盾した要求で進退窮まった。これが反米、反日、反基地の左派による成功第1段だった。

 そして第2段として、埋め立て反対の大合唱、大動員が、これから始まるわけである。

 そこに、中華帝国の露骨な侵略意図が国外から襲いかかる。沖縄には今年5月、公然と「独立」を謳う団体が発足した。中国は、歴史的に属国だった琉球を日本が奪い取ったと言い始めた。
 中国が尖閣諸島の奪取だけで満足するわけがないことは自明である。米軍を追い払って西太平洋の覇権を握るには、沖縄をすべて支配下に置くことが必要不可欠だ。

 中国は尖閣を取る構えを続けながら、同時に沖縄全部を尖閣化する戦略を考えているだろう。それを阻止するには「(米軍基地)負担の軽減」という旧来の発想では不十分である。

 実は、3年前に、当コラムでこの問題の対処法を提示した。いま重要な段階に来たので、それを再掲し、改めて強く警鐘を鳴らしておきたい。(以下、初出は平成22年5月)


 地球儀をくるっと回すと、世界には天然自然の「要衝」(ようしょう)が幾つかあることに気づくはずだ。ずぶの素人でも分かる地理上の現実なのだが、要衝にはひとつの顕著な特異性があるということに気づいている人は少ない。

 実はそういう地点の地域住民や、統治する政府の思い通りにならないのが、要衝の要衝たるゆえんなのである。

 いちばんわかりやすい例はスエズ運河とパナマ運河(共に開通前は地峡)であろう。もし管理する政府が突然、「運河など要らない。埋め立てて農地にする」とか、「平和憲法ができたから軍艦は一切通さない」などと某社民党党首が言いそうなことを宣言したらどうなるだろうか。

 断言してもいいが、直ちにNATO(北大西洋条約機構)や米軍が空挺部隊を送り込み、運河全体を軍事占領してしまうだろう。

 国連加盟国に対する領土侵犯だとか、主権の侵害だとか抗議しても始まらない。いくら国際法違反を言い立てても、こういう場合は全く意味がないのである。

 そんな無法はあり得ないという人は、更に英領ジブラルタルの例を知るべきだろう。地中海と大西洋を結ぶ狭い海峡の北側の一角を、英国が約3百年前にスペインから奪い、いまだに海外領土として海軍部隊を駐留させている。

 地続きのスペインは返せと訴え続けているが、英国は知らん顔だ。同じNATO同盟国同士でも、国の安全に関わることは譲歩し得ない。繁栄する香港は手放しても、人口3万人足らずの岩山でしかないジブラルタルは返さない。要衝だからだ。

 もうお分かりだろうが、沖縄も要衝の1つであり、しかもその世界的重要度は上記3地点に優るとも劣らない。

 ひとくちで言うと、「沖縄を制する者は東アジア・西太平洋を制す」。

 決して誇張ではない。そもそも幕末にペリー提督が黒船艦隊で日本に開国を迫った際、彼らはまず沖縄に上陸し武力で威圧した(1853年、54年)。その後アメリカが分裂して南北戦争を足かけ5年(1861-65)も戦ったため、日本は旧体制を清算する時間稼ぎができ、1867年に大政奉還、68年に明治維新を成し遂げた。

 もし南北戦争が数年ずれていたら、沖縄も日本本土も清朝末期のような列強支配の状態に追い込まれていたかもしれない。

 それから約90年後、米軍はペリーと同じく、日本を降伏させるにはまず沖縄を制圧しなければと考えた。要衝は誰が見ても要衝なのである。

 日本海軍が米海軍と太平洋を半分ずつ支配していた約30年間、「東アジア・西太平洋」の覇権は日本が握っていた。
 日本の敗戦のあと、その覇権はそっくり米国のものとなった。この陸・海の広大な広がりのカナメに沖縄が在る。

 日本列島と琉球諸島の長い連なりは、大陸側から見れば太平洋に進出するのを邪魔する長城のようなものだ。帝政ロシア、ソ連、現ロシアは歴史的に一貫してこの障壁に阻止され続けている。

 対照的に大陸中国は、歴史上初めてこの「海の長城」に挑み始めた。成功するかどうかのカギは沖縄が握っている。
 仮に台湾を支配下に入れて外洋海軍の拠点にしたとしても、沖縄を日米両国が確保している限り太平洋の半分を支配することはできない。

 逆に沖縄を手に入れれば西太平洋を支配でき、日本は自立性を失い、東アジア全体が自動的に「中華」にひざまずくことになる。

 すなわち東アジア・西太平洋の覇権が、20世紀前半は日本にあり、後半はアメリカに、そして次は中国に移るという予想(願望)を、中国指導者が持ったとして不思議ではない。その場合、必要不可欠なのは台湾でなく、沖縄だということに気づくはずだ。

 要衝は誰が見ても要衝なのである。沖縄県民も日本政府も沖縄を思い通りにできないのだという特異性をまず認識し、その上で、外国勢力の思惑通りにもさせないぞという一点において合意することが必要だ。

 地域住民である沖縄県民としては、日米の政治体制と軍事力を拒否するならば、中国の政治体制と軍事力がとって代わるだけ、という展望は受け入れ難いであろう。しかし、理性的に考えればその中間はないということが分かるだろう。

 もし中国軍が普天間飛行場を手に入れたとしたら、危険だから移転するどころか、周辺住民を何十万人でもすべて強制的に立ち退かせるに違いない。チベットや新疆ウイグル自治区のように漢族をどんどん送り込み、沖縄県民を少数派にしてしまう方策もとるだろう。

 要衝の住民がとるべき方策は、要衝であることをいわば人質にして、世界から実利を喜んで注ぎ込ませることが基本である。政府を追い込んですべての税金を免除させ、全島を「無税特区」にするぐらいの発想が必要だ。

 鳩山首相が「最低でも県外」と言って沖縄の歓心を買おうとしたのは論外であったが、「学ぶにつけて」米海兵隊が抑止力の一部だと分かったという言い訳も、沖縄問題の核心から大きくズレている。

 繰り返して言う、「沖縄を制する者は東アジア・西太平洋を制す」。
(おおいそ・まさよし 2013/12/27)


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