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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.178
    by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成26年1月28日

          靖国はリンカーン記念堂と同じ

 安倍晋三総理は米国首都の「リンカーン記念堂」(Lincoln Memorial)を、訪れたことがあるだろうか。入ってみれば、「なんだ、これは、靖国神社ではないか!」と膝を叩くに違いない。

 巨大なリンカーン座像の背後の壁に、この建物のいわれが簡単に5行、刻み込まれている。「このテンプルには、、」で始まり、「、、祀られている」という結びの名文で、ここが宗教的施設であることを示している。

 英語のテンプルは仏教の寺と関係なく、祈りの場という意味だ。ほかにもフリーメーソンが聖堂をテンプルと称している例がある。

 そして、テンプルには動詞形がないので、代わりに「シュライン」(日本では神社)の動詞形である「エンシュライン」を、受身形で使っている。明白に「祀られている」という意味だ。

 祀られているのはリンカーン個人なのだが、一神教の文化では人間を神格化するわけにはいかないので、「リンカーンのメモリー」とボカしているところがミソだ。

 では、その全文を紹介し、それを靖国神社に当てはめた筆者オリジナルの例文と、両方の翻訳を独自提案してみよう。

"In this temple,
 as in the hearts of the people
 for whom he saved the Union,
 the memory of Abraham Lincoln
 is enshrined forever."
_____________

"In Yasukuni Shrine,
 as in the hearts of the people
 for whom they saved the united Japan,
 the memories of the War Dead
 are enshrined forever."


この聖堂を建立し、エイブラハム・リンカーンを永遠に記憶する。
合衆国を救った功績をわれら国民は決して忘れない。

靖国神社を建立し、統一日本を守った人たちを永遠に記憶する。
祖国のために命を捧げた功績を国民は決して忘れない。


 以上のように比べてみると、そっくり同じではないかと驚くだろう。リンカーンの功績は奴隷解放などではない。すでに分離独立して大統領まで就任していた南部を降伏させ、国を再統一したということに尽きるのである。
 3行目の「Union」には、合衆国と統一という2つの意味を持たせている。

 日本も事情は同じで、大政奉還を受けた新政府が、旧体制派の武力抵抗を敗北させ、統一日本を推し進めた。その官軍戦死者を祀ったのが東京招魂社(後の靖国神社)である。
 リンカーンも勝利と同時に南部人に暗殺されたので、官軍戦死者という点で同じだ。

 日本では、英霊とか、神として祀られると口では言うが、実際にそう信じてはいない。祀るのはメモリーである。世界的にも同じであろう。

 リンカーンの北部政府も、明治政府も、もし負けていたら今日の米国、日本は存在していない。国の統一がいかに歴史的な偉業であったかが分かるだろう。

 実際に、英仏には遅れたが、イタリア統一(1861)、米国再統一(1865)、明治維新(1868)、ドイツ統一(1871)という具合に、世界の主要国がほとんど同時期に国内統一を成し遂げ、近代国家をスタートさせている。

 安倍首相は、靖国神社をアーリントン国立墓地と同じだと示唆したが、オバマ政権は受け入れず、国務・国防の両長官が見当違いの千鳥ヶ淵戦没者墓苑に参拝することで意思表示した。

 靖国が各国共通の「無名戦士の墓」にあたるという主張は正しいが、神社は墓地ではないので、その性質が理解されないのかもしれない。

 したがって、靖国神社を理解させるためには、そっくり同じ性質のリンカーン記念堂を持ち出した方がいいということになる。

 そうすることで、日本国内でも、無宗教の追悼施設が必要だというような無知蒙昧をいさめることが出来よう。テンプル、シュライン、モスク、チャーチ等々、なんと呼ぼうが祈りの場に変わりはないのである。

 また靖国に祀られている特定の名前に不満があるならば、リンカーンに敗北した南部人の恨みつらみがどれほどのものだったかを思い出してほしい。祈りはすべてを吸収すると考えるべきである。

 安倍氏には早急に訪米してリンカーン記念堂を訪問、参拝するようお薦めしたい。4月に予定されているオバマ来日のとき、上記の2つの銘文を渡して説明したらどうだろうか。驚く顔が楽しみだ。(おおいそ・まさよし 2014/01/28)
 

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