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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.180
    by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成26年3月26日

         手口でわかる中露韓の歴史逆行爆弾

 欧州と米国に衝撃を与えたプーチンのクリミア併合は、むしろ日本にとって分かりやすく、国益上もプラスになるかもしれない転換点である。

 前月コラムの続きのようになるが、これで中韓両国に続きロシアも公然と、過去の栄光の時代に戻ることを目指していることが明らかになった。

 中韓はこれまで「日本が右傾化」し、特に安倍首相が歴史修正主義者で、第2次大戦終結以来の国際秩序に挑戦していると攻撃してきた。その悪宣伝を、こともあろうに米国メディアや政治家、有力者の相当部分が信じ込み、英国やドイツなどの有識者にも浸透しつつあるという状況だった。

 それがロシアのクリミア併合のおかげで、事実は正反対だったことが間接的に証明されたことになる。既存の国際秩序に挑戦しているのは、間違いなく中国が先輩であり、いまロシアが追随したのだと、世界的に理解されたにちがいない。

 韓国もまたそのグループの1員であることは、まだ世界的には知られていないかもしれないが、朴クネ大統領の日本攻撃「告げ口」外交に辟易している主要国は、これで理解を深めただろうと想像される。

 栄光の歴史に戻りたい3カ国の願望を比べてみると、ロシアのクリミア併合は冷戦中の1955年、ウクライナに譲渡した領土を取り戻す行為であり、韓国の幻想は明らかに明治初年の日本を見下した時代に戻り、また中国はさらに古い、アヘン戦争以前の清国の最盛期を再現しようとしている。

 こうした理解をさらに深めるためには、3つの国の目的だけでなく、「手口」を過去と比較してみたほうが分かりやすい。手口、やり口には民族性、お国柄が現れるため、いま何をしているのか、そしてこれから何をやろうとしているのか、予想しやすいのである。

 具体例で言うと、クリミア併合はスターリンのバルト三国併合とそっくり同じだ(1939〜40年)。独立国だったエストニア、ラトビア、リトアニアにまずソ連軍の駐留を受け入れさせ、その露骨な干渉下で形だけの総選挙をやらせて、地元共産党に政権を取らせた。
 次に三国それぞれの共産党政府がソビエト連邦に編入要請を行い、ソ連議会は「寛大にも」それを受け入れるという儀式で、バルト三国はソ連の一部となった。地元共産党の幹部は根こそぎパージされて消えた。

 このプロセスを、プーチン大統領は数日で一気に再現したわけである。よほど周到に準備したのであろう。

 韓国は、当コラムで警告しているように、明治維新の国書を拒否し、天皇を認めないとした1世紀半前の時代に戻った。そうすることで「中華」への忠誠心を示したいという「事大主義」を、現代に堂々と再現しているのである。
 前大統領の天皇侮辱と、現大統領の中国への傾斜は、こういう文脈で見なければならない。

 さて中国はというと、日本に対しては清国が軍事力を過信し、明治19年、日本にない最新型戦艦「定遠」などの北洋艦隊を、長崎に派遣して威圧を試みた。
 その際、清国兵数百人が上陸して乱暴狼藉を働き、巡査や住民と斬り合いまで演じた。

 有名な「長崎事件」であるが、この乱暴な砲艦外交と、近年の尖閣諸島を巡る軍事的威圧の間に、何か違いはあるだろうか。

 さらに現在の、中国の経済的自信過剰は、18世紀末、英国の使節マカートニーに対し、「貿易したいなら臣下の礼をとれ」と土下座(三跪九叩頭)を要求したことを思い出させる。

 当時は英国、いま米国が、とりあえず中国の顔を立てることで、経済的利益を得ようとしているのは、歴史的に見て賢明と言えるだろうか。

 プーチンがクリミア併合だけで満足するわけがない、というのは欧米の一致した見方だ。そうであるならば、中国も尖閣の奪取だけで満足するわけがないということに、欧米は素直に納得するはずだ。日本が主張する好機である。

 問題は韓国である。内向きのオバマ米大統領をどう説得するか、それが最大の鍵であり、その責任は安倍総理にかかっている。日米韓が「同じ価値観を共有する」という決まり文句は、とっくに空洞化してしまっている。

 韓国はもう日米両国にとって、守るに値する民主主義国でなくなっている。実体は中華帝国の「代貸し」、すなわち歴史的朝貢国の筆頭になりたいのである。
 その立場を固めることによって、北朝鮮よりも優位に立てると夢見ている。

 日本はプーチンに配慮する必要はない。それが強味だ。プーチン・ロシアの世界的孤立は当分続く。したがって日本まで敵側に追い込むことは避けたいと考えるだろう。

 ロシアは、ラブロフ外相が公然と「北方4島の取得は第2次大戦勝利の結果」だとうそぶいている。これは中国に同調してみせているわけだが、プーチン自身はそう言っていない。
 巧妙な役割分担である。プーチン戦略が欧米と対立すればするほど、日本に対して別の外交を仕掛けてくるに違いない。

 日本では過去の栄光の時代に戻るなど、誰も考えていない。米英も、独仏伊も同じだ。つまり、これが世界の主流であることは明らかだ。
 日本は、そう言えばいいのである。

 日本にとって、すべてが逆目に出ているわけではない。自虐的なメディア報道に惑わされることなく、日本人の歴史認識を欧米に発信する好機と受け取るべきだろう。
(おおいそ・まさよし 2014/03/26)


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