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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.182
    by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成26年5月27日

        習近平ら中国三主席にノーベル平和賞を!

 世の中には「隠れた大スクープ」というべきニュースが、時々現れる。読売5月16日夕刊に掲載された記事で、ノルウェーの元国連大使が同国経済紙に寄稿したという内容の紹介が、まさにそのスクープに相当する。

 その内容とは、2009年のノーベル平和賞が、就任して数ヵ月のオバマ米大統領に決まったとき、ラーム・エマニュエル大統領首席補佐官が、駐米ノルウェー大使に対し、「まだ実績もないのに、へつらっては困る」と苦情を述べたという暴露だ。

 これがなぜ大スクープかというと、その後のオバマ大統領の内向き傾向、その結果のアメリカの国威衰退の原因が、実はこの平和賞受賞にあった可能性が浮き彫りにされているからである。

 この種の「へつらい」、平たくいえば「ほめ殺し」が、いかに人間の行動を制約する効果があるか、それが痛いほどよく分かるのである。

 日本では古来から「位打ち」(くらいうち)と呼ばれ、台頭する武家に高い官位を授与して懐柔してしまう手法が効果的だった。

 大統領当選の熱狂から就任式、そして4月の「核のない世界」演説と続くオバマ旋風は、たしかに日本を含む世界のメディアと世論を席巻していた。
 しかし、さすがにオバマの最側近で老練政治家のエマニュエル首席補佐官は、この受賞がオバマに巨大な「負の圧力」をもたらすだろうと危惧していたのである。

 オバマが受賞を辞退する選択肢もあっただろうが、彼はそうしなかった。政治家としても経験が浅く、上院議員も一期目の途中で終わった。もともと人権派弁護士で、医療・社会保障以外の知識はほとんどなかった。

 オバマ自身は、なぜ自分の就任5年で、アメリカがここまで衰退したと見られるに至ったのか、まったく自覚していないようにふるまっている。
 しかし、ノーベル平和賞の理由だった「核のない世界」は、もう誰も話題にしなくなった。あの演説の真の狙いは、兵器転用可能な核物質を米国主導の管理下に置くことだったが、そんな成果はどこにもない。

 それどころか、シリア政府による化学兵器使用で、「レッドライン(越えてはならない一線)を越えた」と軍事介入を示唆した後、堂々と腰砕けになってロシアの提案に乗り、ダメ押しのように「米国は世界の警察官ではない」とまで断言してしまった(昨年9月)。

 これはいわば分水嶺を越えたようなもので、世界でもうアメリカは軍事介入をしないと宣言したことになる。

 だからこそ、4月の訪日で共同記者会見した際、米人記者が尖閣でのレッドラインはどこかと質問したのである。
 日本側は、大統領が共同声明と記者会見の両方で、「尖閣は日米安保の対象地域」と明記、明言したことに大満足したが、米記者の質問には「レッドラインはない」と答えた。

 これで、日米安保の適用範囲ではあるが、米軍を投入することはないという意味だということが明らかになった。
 これは、皮肉を込めて「真・オバマドクトリン」と呼ぶべきだろう。この方針と反比例する形で、中国とロシアの「夢よもう一度」願望が刺激され、領土拡大意欲が一段と露骨になってきた。

 ノーベル平和賞はスウェーデンではなく、ノルウェーの国会が任命する5人委員会が選考し授与する。
 そのためかどうか、個人に対する授賞には政治的な思惑が強く、毎回、反発と議論を巻き起こしている。

 後で全く意味がなかったと判断される例では、1973年「キッシンジャーと北ベトナム代表(辞退)」、94年「アラファトとイスラエル側2人」、2000年「金大中」(カネで金正日との会談を買った)など。

 世界と関係が薄い国内民主化運動ではないかと言われたのは、91年「アウンサンスーチー」、03年「イラン女性ジャーナリスト」、10年「中国獄中作家」など。

 旧宗主国系に肩入れして混乱を助長しただけという、96年「東ティモール活動家」の例もある。
 
 現役を引退した後の活動を評価されて受賞したカーター、ゴア両元大統領の例が対極にあるので、現職オバマの例が厳しく批判されるべきであることが分かるだろう。
 ノーベル平和賞をズシリと背負わされて萎縮してしまった米大統領として、オバマは歴史に名を残すことになろう。

 それを予期したのかどうか、エマニュエル首席補佐官は、実質ナンバー2の実力者だったのに、受賞からわずか1年後に辞任している(のちシカゴ市長選に出馬、当選)。

 一般的に日本人は、ノーベル賞という権威に弱いようだが、この際、事実をよく見極め、平和賞の持つ魔力をうまく利用することを考えたらどうだろうか。

 具体的には、習近平、胡錦濤、江沢民の三代の国家主席に授賞するよう、日本政府官民挙げて推薦する。共同受賞は3人までなので、習近平と金正恩、朴槿恵の3人という手もある。辞退するようなタマは、ひとりもいないだろう。

 授賞理由?
 そんなものは、後から貨車で来る。(おおいそ・まさよし 2014/05/27)


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