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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.188
    by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成26年11月26日

         改めて問おう、韓国を守る必要あるのか

 少し早いが、師走の総選挙後に、第3次安倍晋三内閣が発足することはほぼ間違いない。安倍総理の身になって考えてみると、第1次安倍内閣を1年で投げ出したあとの6年間に、練りに練った宿願の政治的目的を追求するには、このチャンスしかないと決意しているだろう。

 衆院解散の真の狙いはここにあるのかもしれない。メディアはこの重要ポイントを見逃している。その宿願とは「戦後レジームからの脱却」にほかならない。

 奇跡的な「アイ・アム・バック」で総理再登板となった第2次政権では、長期デフレからの脱却がすべてに優先され、外交では中国と韓国の新リーダーから敵視され、米欧からは歴史修正主義者と疑われ、宿願にはほとんど手を付けることができなかった。

 いわゆる「集団的自衛権の限定的行使容認」の閣議決定は、数少ない成果の1つで、米欧からは評価されているが、それでも石破茂幹事長(当時)などが主張する全面的容認を、初めから断念した結果だった。

 宿願の1つであったはずの「河野談話」見直しという公約は、いつの間にか「しない」という対外公約に変わってしまった。その後に、朝日新聞の大誤報(正しくは捏造)取り消しとなったのは、何とも皮肉だった。

 安倍首相にとって、さらに2年か3年先の第4次政権に、一番やりたいことを先送りするという選択肢はない。これは自明のことだ。

 とすれば、まず何をどう着手するか、それが問題だ。

 当コラムが繰り返し指摘しているように、米国の政権や指導層、メディアが間違って思い込んでいることを、効果的にひっくり返すことを考えるべきだろう。

 それには、「韓国は日米で守る価値がない」という提案を堂々と行うことである。それが刺激的すぎると思えば、一歩引いて「民主主義の価値観を共有しているのかどうか疑問だ」という言い方でも十分だ。

 米国と韓国の軍事同盟は、北朝鮮の攻撃に備えるためだが、もはや休戦状態が60年を超え、「国連軍 Vs. 北朝鮮・中国」という対決は完全に形骸化してしまった。
 陰の当事者だったソ連(ロシア)は離脱し、中国ももはや北を助けて参戦する情勢ではなくなった。

 韓国は1950年6月、北の奇襲によって国のほとんどを制圧され、日本に亡命政権を打診するほどの危機に陥った。日本に駐留するマッカーサーの米軍が反撃し、ようやく元の国境を取り戻した。
 それ以来、現在に至るまで、韓国駐留の米陸軍部隊は日本国内の海空基地と、日本国民の協力に支えられて、韓国の防衛を実質的に担ってきた。

 いま、その韓国では、大統領が率先して日本非難のヘイトスピーチを世界中にまき散らし、世論調査では嫌いな国のトップは日本、次がアメリカと定着している。
 潜在敵国のトップも日本であって、北朝鮮ではない。

 政治体制は一見、議会制民主主義のように見えるが、当選した大統領に有形無形の権力が集中し、とくに現政権は「不機嫌な女帝」が君臨しているとしか思えない。

 そういう政権とメディアが共鳴し、日本にすべて言うことを聞けと要求し、同時に中国には露骨に「事大」する(大につかえる)。

 誰が見ても「歴史的朝鮮」に本卦還りしてしまったのである。

 こういう韓国の変貌を、日本から米国側に問題提起するべきである。現在に至るまで、米国は米韓・米日の安全保障トライアングルをすべての前提に置き、その前提にヒビを入れるような行動をしないよう、安倍政権に露骨な牽制をかけてきた。

 実際のところ、ヒビを入れているのは韓国自体なのだが、米国側はその事実を直視したくないか、あるいは中韓両国を結びつけた中華秩序というものに無知なのかどちらかだ。

 幸い、というのも変だが、中東で自称「イスラム国」が百年前に押しつけられた「西欧秩序」に挑戦し始めたところなので、東アジアでも同じことが起きているのだと説明すれば、欧米側の理解は得られるだろう。

 韓国を日米欧の側に引き戻すことはもう不可能だ。では、軍事問題はどう考えるのか。

 中国が参戦する可能性がほとんどないとすれば、北朝鮮が単独で南に侵攻する可能性もほとんどない。もしあったとしても、韓国が単独で撃退できる。北の戦力はもはや比較するに値しないほど遅れ、韓国を占領するなど夢のまた夢だ。

 米国は中国への抑えという意味と、核の中東への拡散を最も恐れていたが故に、韓国の防衛を当然視してきたが、その両方とも、今では意味がほとんどなくなっている。北の核開発は張り子の虎でしかなかった。

 安倍首相が米国と本音で協議するべきなのは、このまま韓国と北朝鮮が何十年も存続するはずはないので、朝鮮半島の将来をどう見定めるかということである。

 北の経済力はどんどん低下しており、最近の韓国政府機関の推計では韓国と「43対1」の差がついているという。
 東西ドイツの場合は、10倍程度の差だった。
 
 この前例をあてはめると、韓国が北に対し20年間で5千億ドル、すなわち50兆円近くを注ぎ込む必要があるという。

 米国は、60年前の朝鮮半島でなく、21世紀の現状を直視しないと東アジアに同盟国、友好国は日本だけになる。
 そして中華秩序に組み込まれた朝鮮半島は、「偉大な復興」のコストを、南北分断の責任があるのだからと日米に押しつけてくるに違いない。

 安倍首相は「戦後レジームからの脱却」の意味を、そう説明することから始めるべきである。(おおいそ・まさよし 2014/11/26)


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