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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.189
    by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成26年12月25日

         日英百年のきずな第二特務艦隊

 新年の2月下旬、英国のウィリアム王子が初来日する予定だ。これが日本政府の外交戦略で決められた日程だとしたら、なかなかやるものだと評価できる。

 なぜかというと、2015年は終戦から70年の節目であり、戦勝国(もどきを含む)側では勝利記念のイベントを数多く企画している。
 負けたほうはどうかというと、ドイツは欧州の指導国として経済的にも政治的にも頂点に立ち、今は敗者の立場を余裕で受け流すことができる。

 一方、日本は中韓の中華同盟の標的に据えられ、従前に倍する「歴史認識」攻撃を受けることが確実な情勢だ。中国がいわゆる南京事件をフレームアップする式典を、地方から政府・党直轄に格上げしたのが前兆である。

 それだけでなく、総選挙圧勝で政治的立場を強化した安倍政権を見て、米国のNYタイムズなどの主要メディアは、一段と安倍叩きのトーンを上げている。
 中韓の悪宣伝と、日本を敗戦国のままに従えておきたいという底意が、ここへ来てあからさまに吹き出してきたと言えよう。

 また終戦時まで日本の一部だった韓国・北朝鮮は、同じ敗者のはずなのに、その事実さえ国民に教えないで、厚かましく勝者の側に回ろうとしている。

 ロシアもまた、北朝鮮の独裁者を、何の関係もない対ドイツ戦勝記念式典に招待するという、奇妙な動きに出た。旧ソ連軍の一員だった祖父の金日成を後押しして、国を建てさせたという恩義を思い出させるためだろうか。

 つまり、何もしなければ日本はひとり負け、それも外交惨敗が目に見えているのである。
 この状況を打破する手はひとつ。英国を突破口にすることである。
 
 今年2014年は、第1次世界大戦が始まって百年の節目だった。日本は戦勝国の側だが、政府は何も効果的な演出をしなかった。
 日英同盟の義務によって参戦した経緯は決して単純ではないが、ちょうど安倍政権が「集団的自衛権の限定的容認」を目指しているときなので、「戦争に巻き込まれる」という反対論に配慮せざるを得なかったのだろう。

 しかし、日本は特に英国に対して多大の貢献をしており、英国民も深く感謝していたという歴史が存在する。
 その事実は、同盟国の戦争に巻き込まれるといった消極的な平和論とは無縁であり、日英両国で盛大な記念式典や慰霊祭を執り行うことが当然なのである。

 1917(大正6)年4月から、日本は英国の要請に応え、「第二特務艦隊」を派遣し、オーストラリアから欧州に向かう英輸送船を護衛して、スエズから地中海まで進出した。

 日英同盟はインド以東を適用範囲としていたので、この派遣は同盟義務と関係のない外交的配慮によるものであった。

 同艦隊は当初、巡洋艦1隻と駆逐艦8隻で、地中海の英領マルタ島を基地として、連合国側の艦船をドイツの潜水艦Uボートから護衛する任務に就いた。

 当時、Uボートによる魚雷攻撃の被害はすさまじく、英海軍でさえ尻込みするほどだったが、同年5月、英客船が撃沈された際、日本の駆逐艦2隻が、自ら被害を受ける危険をかえりみず、全力で約3千人も救助して名を挙げた。
 英国議会は感謝決議を採択し、日本語でバンザイ三唱したという。英国に記録があるはずだ。ジョージ五世国王は艦長以下27名に勲章を授与した。

 日本艦隊は翌年の撤収までに、348回の出動で延べ788隻の連合国艦船を護衛したが、自らも駆逐艦「榊」が魚雷攻撃を受けて大破、艦長ら59人が命を落としている。

 このため、マルタ島に英国が建てた「日本海軍墓地」があることが知られているが、この犠牲者を含む91名が、この戦域の戦没者として靖国神社に祀られているという(東京新聞14/10/27)。

 つまり日英両国は、第1次大戦全体や日英同盟と切り離し、この第二特務艦隊の活動に関してのみ、何のわだかまりもなしに、感謝と慰霊の式典を共催することができるのである。

 その式典の会場は、靖国神社でしか、ありえない。そこがミソである。昨年10月、米国務・国防両長官が千鳥ヶ淵「戦没者墓苑」に行ってみせたが、そういう逃げ道はない。あの墓苑は何の関係もないからだ。

 ウィリアム王子は、空軍の救難ヘリ操縦士という軍歴を持つ。第二特務艦隊について知識があるかどうか分からないが、事実を知れば軍人として黙っていられないだろう。

 日本をよく知るヒッチンズ駐日英国大使や、「特務艦隊」などの著書がある元英国人のC・W・ニコル氏などから、日本側の願いを伝えたらどうだろうか。

 これは急を要する提案である。なぜならば、ウィリアム王子は3日程度の日本滞在のあと、中国を訪れることになっている。
 そうすると、中国は全力を挙げて王子に日本非難を吹き込むに違いないからだ。南京やその他の百パーセントでっち上げの「愛国洗脳施設」に案内することもありえよう。

 これには前例がある。今年10月、国賓として来日したオランダ国王夫妻が次に韓国を訪問した際、朴クネ大統領が直に、お決まりの慰安婦問題を訴えたのだ。
 オランダ王室が日本の皇室とどんなに親密であるかにお構いなしに、旧日本軍による被害で共同戦線を張れると考えたらしい。

 あまりの淺知恵に戦慄さえ覚えるが、英国王子が同じスジに誘い込まれる恐れは何倍も強いといわざるを得ない。それを阻止するテコが、第二特務艦隊なのである。

 外交戦とは、かくも熾烈なものと知るべきであろう。(おおいそ・まさよし 2014/12/25)


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