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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.203
    by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成28年2月27日

         借金1千兆円は自虐のウソ宣伝

 1月末からの世界的な金融・株価大混乱で、日本の国債と円に資金が流れ込んだ。日本銀行のマイナス金利採用とは関係なく、日本円が世界で最も安全という常識が確認されたわけである。
 
 その混乱の最中に、財務省は性懲りもなく、国の借金が昨年末で1,044兆円あまりだったと発表した。読売、毎日の各紙は揃って、「国民1人あたり約824万円の借金を背負っている」と書いている(2/11)。

 それほど壊滅的な財政状況の国の通貨や国債が、どうして世界で最も安全なのか。この矛盾をメディアはちゃんと説明すべきではないだろうか。

 実は、この発表は、数字は正しくてもデマに近いものであり、しかも世界に自虐をばらまいているのである。

 企業でも家計でも、借金(負債)と同時に資産があるのが普通だ。たとえばサラリーマン家庭で、2千万円の住宅ローンを組んだとすれば、家族4人なら1人5百万の借金を負っている計算になる。
 しかし、同時に手に入れた住居は、それ以上の価値の資産であるのが普通だ。したがって差し引きすれば、資産のほうが多いというのが常識だろう。

 財務省の発表は、国の負債だけを国民に強調し、資産を知らせないようにしているので、一種の詐術だと言わざるを得ない。

 公表されている財務書類では、2014年度末の国の資産は、有形固定資産180兆円を入れて総計680兆円ほどである。
 単純に財務省の言う「国の借金」からこれを差し引けば、364兆円にすぎないことになる。帳簿上は負債になる年金預かり金等を加えても、492兆円だ。

 これだけでなく、元財務官僚の高橋洋一・嘉悦大学教授によると、政府と日銀は「広い意味の政府」で一体なので(統合政府という概念)、連結ベースで計算すれば、ネットの負債は170兆円程度だという(FACTA 16/2月号)。

 なんとなんと、1千兆円超どころか、本当は170兆円「しかない」というのだ。

 数字を離れると、もっと突っ込んだ真相に進むことができる。上に示した国の資産には有形固定資産180兆円が含まれているが、これは明らかに簿価なので、時価に換算したらいくらになるか見当もつかない。

 国会議事堂や中央省庁、さらには皇居などの不動産や日本中の国有不動産を時価で計算したらどうなるか。また国立美術館や博物館の所蔵品、文化財を有形資産として計算に入れたら、もう天文学的数字になるしかない。計算不能だ。

 実は、これは日本だけでなく、世界的に国が破綻して消滅することはないという常識の話なのである。

 ブラジルやロシア、アルゼンチンなど過去に国債の償還ができなくて、いわゆるデフォルトした国は数十ヵ国に及ぶが、それでも国はちゃんと存続している。

 現在、ギリシャは中国に、北朝鮮はロシアに、重要な港湾などを長期租借させて外貨を稼いでいるが、見方によっては国の有形固定資産を切り売りしているとも言えよう。

 しかしここでも、国際政治的に先読みすると、これらのホスト国は、いつでも契約を破棄して領土を取り戻すことができるのである。
 独立国(主権国家)である限り、そういうことが可能なので、国は財政破綻しても存続していけるわけである。

 日本は財務省が「財政破綻に向かって突き進んでいる。だから消費税を上げていかなければならない」と、省を挙げて国民を脅しつけている。

 たしかに、少子高齢化なのに社会保障支出が毎年1兆円ずつ増えていくのは問題だ。しかし、これも事実からすると政治問題の1つに過ぎないとも言えよう。

 上に見た数字のトリックを知ると、1年1兆円で百年百兆円なら、たいした問題ではないとも言えるからだ。

 そうすると、本当の問題は、必要不可欠とは言えない消費税増税を勝ち取るために、財務省が国際通貨基金(IMF)などの国際機関を通じて、日本に外圧をかけさせるという手段まで使うことにある。
 いかにも尤もらしい「対日増税勧告」などが、出向した財務官僚によって作られているという暴露話も聞かれる。

 その結果、日本の財政状態が悪いと思い込んだムーディーズなど格付け会社3社は、そろって日本国債を韓国や中国よりも低いイスラエル並みのレーティングにしている。
 それなら、なんで日本円や日本国債が買われるのかと、安倍首相だって疑問を持つに決まっている。

 中学や高校の歴史教科書に、南京事件や慰安婦の記述が載るようになって久しい。外務省や文部科学省が自虐をやめようとしないのは広く知られるようになったが、高校の「現代社会」授業で「国の借金1千兆円」を教えていることを初めて知った(朝日投書欄 2/24)。
 
 知られざるマインド・コントロールが効果を上げている。「省益あって国益なし」の自虐官庁がこれで3つか。(おおいそ・まさよし 2016/02/27)


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