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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.207
    by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成28年6月27日

         中国と知事が組んだ沖縄独立運動

 一般にはほとんど報道されないが、沖縄独立運動が堂々と姿を現してきて、もはや容易ならない段階に来ているとさえ言える。

 それも主導しているのが翁長雄志知事であり、その背後に中国がいることも公然たる事実である。

 事態を理解するキーワードは、翁長知事が昨年から使い始めた「自己決定権」という造語である。いわゆる活動家は以前から多用していた。

 当コラムでは4年前、「左翼のスローガンである民族解放の下地がすでに国際的に拡がっている」と警告したが(2012/07/27付)、まさにこれが現実になってしまった。

 自己決定権というのは、英語にすると「right to self-determination 」となる。これは戦後の植民地独立運動で盛んに使われた用語で、日本では「民族自決権」という慣用語に訳していた。

 翁長知事が日本政府を敵視し、訪米して直に米国政府や議会に、普天間飛行場の辺野古移転をやめるよう働きかけているのはよく知られている。
 しかし、昨年9月には国連人権理事会で「沖縄の自己決定権がないがしろにされている」と英語で訴えたので、聞いた相手は沖縄の少数民族が抑圧にあえいでいるというイメージを受けとることになった。

 ここがミソだ。実際、いわゆる沖縄独立論の論客である龍谷大の松島泰勝教授は、「独立を含む自己決定権という言葉が日常的に使われ、一般市民が口にするようになった」と自画自賛している(AERA 6/27号)。

 英語の直訳でも、少数民族にとって「自己決定」の最終目的は、「独立」以外の何ものでもない。
 松島教授のような独立論者がここまで自信を付けてきた理由は、国連の人権関係部局を味方に引き込むのに成功したからだろうと思われる。

 国連は2008年10月、「自由権規約委員会」が沖縄住民を「先住民族」と認定、さらに14年9月、「人種差別撤廃委員会」も同じ認定で、日本政府に彼らの権利を認めるよう重ねて勧告している。

 日本政府はあまりの馬鹿らしさに呆れて相手にならず、放ったらかしておいたのだろう。そのツケがそろそろ回ってきたようだ。
 この春、国連「女子差別撤廃委員会」の報告草案に、皇室典範が女性差別だから改正すべきだと書かれたのに仰天し、大あわてで何とか削除させたと報道された。

 こういう悪意ある宣伝戦に、日本は伝統的に弱いと言えよう。しかも国連に虚偽のネタを持ち込むのはたいてい日本国内の反日左翼団体である。
 受け取る国連の関係者も、そういう抑圧に敏感な途上国出身者が多いので、事実かどうかよりも、自分たちの実績作りのために、豊かな先進国である日本を標的にする傾向が強い。

 今年は特に移民・難民が世界を揺るがす大問題となり、英国のEU離脱にまで影響が及んだが、なんとこれを沖縄独立に結びつける動きが出てきた。

 ある芥川賞作家が名護市辺野古を訪れ、米軍キャンプ前の抗議テントを見て、直前に訪れたギリシャのシリア難民キャンプとよく似ているとし、「沖縄県民は不当に安全な生活を奪われた難民だと思いました」という(AERA 同)。
 
 日本政府ならずとも、呆れて相手にしたくない馬鹿らしさだが、実はこういう極端なイメージ作りを馬鹿にしてはいけないのである。

 その教訓の最たるものが、例の「性奴隷」である。これは日本の活動家弁護士が国連に持ち込んだ造語だが、これほど破壊的な決定力になるとは作った本人も予想できなかっただろう。

 ただの「軍慰安婦」では、どこの外征軍にもつきものだからインパクトがない。拉致の証拠もない。ならば、「強制連行して性奴隷に」と作文したら、これがピタリと「はまった」のである。
 
 しかもその被害者が植民地支配下の朝鮮半島民だったという3重のインパクトが増幅されたわけで、戦後最大級の日本貶め作戦の成功例となって今日まで続いている。

 つまり、沖縄住民は日本の植民地支配にあえぐ少数民族であり、米軍がそれに輪をかけて難民にしてしまった、というシナリオができかけているわけである。

 実際に、今月9日には初めて中国の軍艦が尖閣諸島周辺の接続水域に侵入し、政府は駐日大使を夜中の2時に呼び出して抗議するほどの事態に進んだ。
 しかし、当事者の1人である県知事は何のコメントも出さなかった。

 それどころか同20日の県民大会では「米海兵隊の撤退」を口にした。撤退は従来の「削減」とは別次元の、究極の表現である。

 中国が海上警察力から別次元の軍事的圧力にエスカレートした直後に、中国迎合丸出しの反応を見せる沖縄県知事とはなんなのか、もはや日本人とは言えないのではないだろうか。

 こんな知事の与党が、今月5日の県議会選挙で過半数を維持したばかりか、3議席増やしていることと、5月に前記の松島教授などが参加して、北京で沖縄独立を巡る「第2回国際会議」が開かれたことなどが、背景にあると見なければならない。

 中国生まれで日本に帰化した評論家・石平氏が2日付産経に詳しく紹介しているが、この国際会議は中国軍の関係機関が主催していて、日本からは沖縄の二大紙である琉球新報と沖縄タイムズなどの県内マスコミ関係者も参加していたという。

 さらに会議の議論には沖縄独立どころか、「全米軍基地撤去」が含まれていたというから、海兵隊撤退よりさらに先を見ていることが分かる。
 
 翁長知事がいつ「全米軍基地撤去」に突き進むか、見ものと言えるだろう。それとも「自治権」と言いかえるか、一気に跳んで「独立」と言ってしまうか?

 英国のEUからの「独立」に続くのは、スコットランドか沖縄か?

 「どうやって生きていけるの?」と聞くと逆ねじを食わされる時代になったようだ。
(おおいそ・まさよし 2016/06/27)


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