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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.210
    by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成28年9月27日

         北朝鮮が日本に連邦国家提案?

 謹んで金正恩(キム・ジョンウン)最高指導者に建策申し上げたい。「日本に対し日本主導の日朝連邦を申し入れたらよろしい。それしか貴国の将来に希望はない。」

 何をバカなと思われるかもしれないが、実は中国メディアの「今日頭条」が9月19日、「もし中国が日本を併合したらどうなるか」という文章を掲載した(サーチナニュースによる)。
 
 この種の「政治ファンタジー」は決して珍しくないが、この文章ではまず「日本が臣下となることを自ら望む」という前提を置いて、中国側がどう対応すべきかを論じているようだ。

 察するところ、併合などの強制力を用いたくないので、日本が素直に従属してくれるとありがたいという虫のいい考えと、中華思想のDNAである「日本はもともと格下」だからという目線が根底にあるのだろう。

 そういう「上から目線」と現実離れした妄想を取り除いた上で、同じようなファンタジーを客観的に適用できるケースを考えてみた。
 それが、北朝鮮による日本への連邦国家提案である。

 北の指導部は、日本との連邦を申し入れる際、3つの条件を付ける。
 1.連邦国家の元首は日本天皇。
 2.日本の非核三原則を受け入れる。
 3.その他はすべて交渉の対象とする。

 さあ、申し入れを受けた日本政府はどうする、どうする?
 
 日本は即座に拒絶することはできない。なぜなら、日本の最大の北朝鮮問題は核とミサイルなのだから、この提案は願ってもない満点の答を得ることになるからだ。
 
 拉致問題も大きいが、「その他」の問題として交渉が続くことになる。

 さらに、竹島問題は自動的に消滅する。北朝鮮は半島全域が領土だという建前なので(韓国も同じ)、連邦になることで問題はないことになる。

 米国政府は、日本が受け入れるなら大いに歓迎と言うに決まっている。反対する理由はない。

 逆に、心臓が止まるほど衝撃を受けるのは韓国と中国に決まっている。だからこそ、このファンタジーは客観的に「今日頭条」の駄文よりマシなのである。

 韓国は、単独で生き残れない、と瞬時に悟るだろう。日朝連邦ができれば米軍は韓国から撤退することは明らかだ。日朝に挟まれて韓国が平穏に生きていけるとは誰も考えない。
 それなら、自分も急いで日本との連邦に飛び込もうとするのではないだろうか。

 その場合、戦後から今日に至るまでの非礼の数々と歴史の捏造を、みずから総括し、謝罪し、責任者を処罰して、日本の赦しを請わねばならない。
 おそらくそうするしか選択肢はないだろう。

 中国はまず北朝鮮に軍事侵攻することを考えるだろう。が、相手も核とミサイルを持っているので、軽々には動けない。
 代わりに韓国に同盟を呼びかけるという戦略もあり得るだろう。

 米軍が韓国からいなくなるなら中国軍が代わって入るとか、自衛用の核とミサイルを提供するというようなニンジンを、韓国の鼻先にぶら下げるかもしれない。

 もう一つ、台湾も影響を免れない。日本中心の連邦に魅力を感じるだろうが、動き方によっては中国が先手を打って実力行使に出るかもしれない。米国の動向がカギとなろう。

 ロシアは直接の影響を受けないが、日本との関係が北朝鮮を通じて(地続きで)密になるというメリットがあるだろう。

 種々のデメリットについては、ここで論じない。最も重要な点は「それしか北朝鮮の将来に希望はない」と分からせることにある。

 北の存在は、関係諸国にとって、いま突然消滅してもらっては困る、という暗黙の消極的な合意によって支えられている。
 中国も韓国も日本も、そして米国にとっても、「困ったちゃん」だが、そこに居ることに意義があるというわけだ。

 北が中国に吸収されるのは韓日米が困る。韓国が単独で吸収するのは明らかに不可能だ。
 逆に北が単独で韓国を吸収するのも夢物語だから、結局、北朝鮮は核とミサイルに国家資源を浪費しながら、無自覚に緩慢な死を待っているだけと周辺諸国は見ている。

 オバマ米大統領の「戦略的忍耐」政策とはそういう意味である。北の核とミサイルの増強を見過ごしているだけではないかという批判も強いが、米国としては現実の脅威になるとは考えていない。

 この客観情勢を理解できれば、生き残りの道は日本のふところに飛び込むしかない、という結論になる「はず」だ。

 日本国民が核に敏感だということを、いま北の指導者はテコに使える立場にある。また日本政府は米国もなし得なかった「北の核兵器放棄」を、平和的に担保する立場に立てる。

 だからこそ、この抜本的な東アジア再構築を、あえて北の指導者に進言するわけである。
 はたして金王朝三代目の目に届くだろうか。
(おおいそ・まさよし 2016/09/27)


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