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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No220
    by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成29年7月29日

         小池圧勝も安倍急落も日本型ポピュリズム

 昨2016年に世界を驚かせた「反グローバリズム」の大波が、意外な形で日本を急襲した。

 昨年の象徴的な政治事件は、英国が国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を決めたことと、アメリカの大統領選挙で極端な自国優先思想を売り込んだトランプ候補が、大方の予想を裏切って当選してしまったことだろう。

 この2つは、いずれも第2次大戦後の「国際化」(グローバリズム)の流れに別れを告げ、「自国優先主義」に逆転したことを意味している。

 先進国の中で、英米両国が歴史的に特別な関係を持つ枢軸であり、西欧勢力(独仏主軸)、日本と並ぶ3本柱の1つを構成していることを考えると、 この歴史的逆転がどれほど大きな衝撃であるかがわかるだろう。

 それぐらい大きな「ポピュリズム」の波紋が、地球を半周して日本に上陸したと理解する必要がある。しかし、その中身は同じ「自国優先主義」ではなく、むしろ正反対であるところが問題なのである。

 「一強多弱」と呼ばれて久しかった安倍晋三首相の支持率が、ここへ来て急落したことの説明は、そう考えないと腑に落ちないのである。

 今年2月までの支持率は、読売、日経、産経、共同などの調査で60%を超えていたが、6月から急落し始め、7月にはこの4社でそれぞれ36%、39%、34.7%、35.8%に続落した。
 20%台にまで下がった調査も2社(毎日、時事)ある。

 これはもう政権がもたない水準だという見方もできるが、実際はそう単純ではない。

 英米の現象は「反グローバリズム」イコール「愛国ポピュリズム」を意味するが、日本の「反アベイズム」はイコール「愛国ポピュリズム」ではない。
 
 正反対に「自虐ポピュリズム」というべき現象で、どこにも愛国心や「日本ファースト」の声は聞こえない。

 安倍総理を蛇蝎(だかつ)のように嫌う左派メディアと野党にとって、加計学園問題はアベを貶める手段として使えると考え、国会をそのための道具として利用したが、あまりに見当違いだった。

 野党第1党の民進党は、「反アベイズム」を「日本ファースト」にイコールさせるように国会議論を持っていくべきだったのである。
 
 小池百合子都知事が都議選で自民党を惨敗させ、自分の新党「都民ファースト」を第1党に躍進させたのは、自民に代わる受け皿を用意し、「都民ポピュリズム」が安心して自民党を見限ることができるようにしたためだ。

 国政で同じことは起きない。

 蓮舫代表の民進党は、せっかく安倍首相をこれだけ失墜させることに成功しながら、自らが受け皿だと国民に納得させるような戦略を全く考えなかった。

 さらに分析を進めると、安倍総理は少し大げさだが「地球を俯瞰する外交」を標榜し、歴代の首相が足下にも及ばないほど頻繁に、訪問外交を繰り広げている。

 これは客観的に言えば、「グローバリズム」を主導したいという思想のあらわれで、同時に「愛国ポピュリズム」を否定する立場を意味する。

 したがって、この立場は、トランプ米大統領はもちろん、「愛国ポピュリズム」の元祖のようなロシアのプーチン大統領とも相容れないことになる。
 
 この根本的な相違のために、実際の安倍外交は見かけほどうまくいってはいない。

 それがハッキリしたのは昨年12月のプーチン来日である。あれほど鳴り物入りでプーチンを故郷山口で歓待したのに、期待した領土問題は話題にもしてくれず、日本側が一方的経済協力を約束して終わった。

 今年になって、トランプ大統領と意気投合してゴルフ外交大成功を宣伝したが、トランプはその後に同じ別荘を訪れた中国の習近平国家主席を最大限に持ち上げ、安倍首相には言及しなくなった。
 直近では、昭恵夫人は英語が分からずハローも言えなかったというような欠礼を、平気でメディアにしゃべっている。

 また、韓国の朴クネ大統領が失脚した後、後任候補の全員と、当選した文在寅(ムン・ジェイン)大統領が、一昨年末の日韓慰安婦問題合意を受け入れず、事実上無効としていることも挙げられる。
 「最終的かつ不可逆的に解決」と内外に胸を張ったが、相手の民族は同じ価値観を持っていなかった。

 安倍外交は、目くらましや目先の「合意まがい」で、自転車のように前に進んでいるように見せかけているが、現実には空回りしているのではないかという批判が聞かれるようになった。

 国会で与野党が議論しなければならない最優先の問題は、このことであろう。安倍政権の推し進めるグローバリズム路線を失敗させ、世界の「反」グローバリズムの流れに呑みこまれるのが日本の国益なのか、声を発する議員はいないのだろうか。

 今のところ、「愛国ポピュリズム」は都議会選挙でプラスに機能したが、日本特有の「自虐ポピュリズム」とどう折り合うのか、それとも激突するのか、全く予測不能と言うしかない。(おおいそ・まさよし 2017/07/29)


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