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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No222
    by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成29年9月28日

           北朝鮮の核武装を読み解く

 世界の度肝を抜くような北朝鮮のミサイル連発と水爆実験をどう見るか。

 一般に報道される議論には、「中国・ロシア」vs.「伝統的西側」の新冷戦がどんどん進行している事実と、「国が成長するとどうなるか」、という歴史的教訓の2つが抜けているように思われる。

 かねてから当コラムで指摘してきたように、共産中国とロシアは足並みを揃えるようにして、過去の栄光の頂点を復興しようとしている。

 プーチン「皇帝」が2014年3月に、ウクライナ領土のクリミア半島を武力で奪取し、東ウクライナを事実上支配下に置いたときから、新冷戦が公然となった。

 中国は習近平国家主席の時代になってから、オバマ米大統領の弱気に乗じて南シナ海のほぼ全域を領海と見なし、岩礁まで埋め立てて要塞化してしまった。

 中露両国は北朝鮮に個別に支援を与えるという形で、東アジアにおける同盟トライアングルを形成している。

 この図式を理解した上で、北朝鮮が何を目的に核武装を進めているのかを分析してみると、意外にも日本と中国の近現代史がモデルになっていることに気づく。

 日本は明治維新前後には弱小国だったが、日清戦争、日露戦争に勝ち、台湾と朝鮮半島を手に入れ、さらに満州に植民するまでの大国にのし上がったが、経済力よりも軍事力の伸長によるところが大きかった。

 中華人民共和国は、毛沢東時代には日本に賠償金を要求するほどの国力(軍事力)がなく、次の実力者・ケ小平が実権を握ったあと、日本を訪れて新幹線に乗り、製鉄を始めとする先進技術を供与するよう辞を低くして要請する場面があった(1978年)。

 それがわずか14年後の1992年には、国内法で日本の尖閣諸島を中国領と明記するまでになった。

 ソ連崩壊で不要になった未完成空母をウクライナから手に入れたのも、本気で海軍力の必要性を認識したからであろう。

 江沢民・胡錦濤の両主席20年で経済規模は日本を抜いて世界第2位となり、軍事力は特に海軍と空軍で飛躍的に増強された。

 この成果の上に乗って就任した習近平主席は2013年、中国を基点としてアジア、欧州、中東、アフリカまで達する「一帯一路」構想を打ち出した。

 これは明らかに戦前戦中の日本の「大東亜共栄圏」を念頭に置いていると思われる。

 しかし、この「大中華共栄圏」は規模がケタ違いで、事実上アメリカと日本を除く全世界を支配、または影響下に置くという構想(妄想?)である。

 こうした日本と中国の歴史を振り返ると、弱小国が軍事力を付けていくにしたがって、国が目指す目的が変化し、どんどん大きくなっていくことがわかる。

 この法則が北朝鮮には適用されないという理由はない。

 つまり、この法則を適用すると、ほぼ開発段階を終わり実戦配備に近づいた核ミサイル戦力を背景に、北朝鮮は前2代の独裁者が目指した国家目標を超えて、もっと野心的な目的に向かって動いているのではないかと推測されるのである。

 「米国との対話を求めている」とか、「対等の立場で平和条約を」とか、「核保有国と認めてもらいたいのだ」とかいうような推測は、みな過去のいつかの時点では当てはまったかもしれない。

 しかし、今は明らかにそうでない段階に進んでしまっていると考えるべきだろう。それほど、北のミサイルや核の開発は急速に、加速度を付けて進展している。

 その背景も明らかで、次々に登場する新型ミサイルのエンジンは旧ソ連製にそっくりという証拠写真がある。

 また米国本土に届くICBM級のミサイルを乗せた片側8輪の移動発射台は、中国が木材運搬用トレーラーという名目で堂々と輸出したものだった。

 つまり、北朝鮮は中国・ロシアの加速的な技術的支援を得て「先軍政治」(軍事最優先)を推進し、今日の軍事力を築き上げた。

 そうなれば、自然と自国の領土を拡げたくなる段階に入る。いわゆる「帝国主義的発展」の段階だ。

 領土を拡げる対象地域はどこか?

 言わずと知れたことで、答は「韓国」に決まっている。

 すなわち、北朝鮮はアメリカに喧嘩を売っているように見せかけて、本当の狙いは韓国の降伏だと考えるべきだろう。

 韓国の専門家の中にも、「金正恩委員長の最終目標は米国との交渉ではなく、武力による韓国との統一にある」という受け止め方がある(産経 9/10)。

 中国とロシアが北朝鮮を支援しているのはアメリカと戦争させるためではなく、米軍を無力化して韓国と切り離すという戦略で、3国が利益一致しているからである。

 この場合、オバマ的米国なら、戦争に巻き込まれるのを恐れて、韓国から米軍を引き揚げるということになる可能性が高い。

 もう一つの可能性は、それ以前に韓国が事実上降伏状態になり、米軍に撤退を要求するという展開である。これはトランプ的米国で、よりありうる事態であろう。

 実は、そういう進展の端緒を作ったのは、前政権の朴クネ大統領なのである。

 朴大統領は就任当初から慰安婦問題を大きく取りあげ、世界を回って日本批判に熱を上げた。日本には一度も行かず、中国を訪問して習近平と日本非難の合唱を繰り広げた。

 なかでも15年9月、抗日戦勝70年記念の軍事パレードに列席し、半島が敗戦日本の一部だったことさえ記憶にないような恥さらしを見せつけた。

 外交の基本を「米国と中国の橋渡し」をするという、日本の鳩ぽっぽ首相と同じような夢物語に置いた。

 これで習近平は、もう韓国は半ば米国から離れたと受け取ったに違いない。その判断がまた、北朝鮮の強気に輪をかけたのだろうと推測されるのである。

 朴クネ政権でさえそうだったものが、左翼の文在寅政権になったのだから、もうほとんど行く先は決まったようなものだ。

 現在の東アジア図は、「中露朝」の新興軍事勢力が、「米日韓」の現状維持勢力から韓国をもぎ取る過程にある。

 そしてもう4割方、それに成功しつつあると言えるだろう。

 半島の歴史には大陸の大国に事(つか)える「事大主義」が深く根付いている。韓国民にとっては北の若い独裁者にひざまずくのはイヤだが、その背後にいる大親分に従うと思えば抵抗は少ないと思われる。

 今はたまたま、トランプ大統領という特異な性格の指導者が登場したため、子供の喧嘩のような様相を呈しているが、そういう外見にとらわれずに大きな流れを見極めることが必要である。(おおいそ・まさよし 2017/09/28)


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