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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No225
    by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成29年12月25日

         核心に迫れない相撲と北朝鮮報道

 朝から晩までワイドショーやニュースショーで専門家や識者が繰り返す見識が、まったく核心に迫らない、すなわちわざと周辺だけを回っているというケースが多い。
 そのうち特にひどいと思われる事案を2つ取りあげることにする。

 第1は、大相撲の世界でまた起きた暴力事件である。これは現象としては暴力事件なのだが、核心は国際問題であって、昨年から世界を震撼させている欧米の移民問題と同じものである。

 欧州では明らかにイスラム系の移民や難民が急激に増えたことが、問題を引き起こした。彼らは、ごく少数がキリスト教社会に入っていったころは、できるだけ社会に溶け込もうと努力するし、そうせざるを得ないと納得していたはずだ。

 しかし、ある程度増えてきて、また集団で住むようになると、次第に自分たちの文化や習慣を維持し、元々の住民に対抗する心理が強く出てくる。

 これは日本でも、東京や横浜の中華街とかコリア・タウンで時々、周辺住民とトラブルが発生するのと共通した現象だ。

 大相撲の問題がやっかいなのは、不特定多数の話ではなく、ごく限られた少数の世界で、モンゴル系の力士が社会的限界を超えて、増えてしまったことにある。

 さらに二重にやっかいなのは、欧米では移民勢力を束ねて支配下に置こうというような権力亡者はまだ出ていないが、大相撲ではすでに朝青龍と白鵬の2人が相次いで出現し、それが「大相撲の暴力事件」を生んでいる事実である。

 つまり暴力事件が、この問題の核心を覆い隠す煙幕(ブルーシート?)になっているのである。

 モンゴルを含む中央アジアの遊牧民は歴史上、「強い者が支配する」すなわち「オレがルールだ」という文化だ。大モンゴル帝国、帝制ロシア、ソビエト連邦、現プーチン帝国と続く強権政治の連続を見れば、その遺伝子がいかに強いかが分かる。

 日本は逆に、「強い者ほど謙虚に、控えめに」という文化の国だから、およそ正反対の文化の人々を、それと知らずに受け入れてしまったわけである。

 11月の九州場所で、横綱白鵬は負けを認めず仁王立ちになっただけでなく、優勝インタビューで力士にあるまじき言動をし、さらにオープンカーに同部屋でない十両優勝の蒼国来(内モンゴル出身)を同乗させた。

 こういう「権力者」ぶりを余すことなく発揮した上で、場所後の力士研修会で「貴乃花巡業部長が九州沖縄巡業に同行するなら、力士全員が、、」というようにボイコットを示唆したという。

 この発言がもっとも罪が重いと思われるが、協会理事長も幹部たちも何もなかったようにスルーし、要求通り貴乃花親方を巡業から外した。

 これで白鵬は、名実共に、モンゴル勢だけでなく大相撲全体を支配する権力者だと、世間に知らしめたわけである。全体という意味は、力士OBも、相撲記者もそのOBも、全部含まれているからである。

 こういう全体像を把握している報道関係者も多いと思われるが、公然と口にしたり、紙面で詳述するのは困難であろう。
 特定の国や民族を排斥するのか、という誤解の反論が怖いからである。

 その「特定の国」が特に親日的な国なので、政府・関係省庁も頭を抱えていることだろう。

 問題が噴出してからではどうにも解決の方法がないという点で、欧米の移民問題と大相撲の問題は全く同じなのである。

 報道が核心を避けている第2の問題は、北朝鮮の核・ミサイル開発の挑戦にどう対処するかという議論である。

 実のところ、ある程度の専門家であれば、ほとんど全員が北朝鮮の核・ミサイルの開発を止めることは、もはやできないと分かっているはずだ。

 それでもそう言うわけにはいかないので、「絶対に容認できない」とか、「開発を断念し核を放棄させるまで圧力をかけ続ける」などと言い続けるだけになっているのである。

 現在の世界で、核兵器と運搬手段を充分に備えているのは5大国、すなわち国連の常任理事国だけで、そのほかイスラエルとインド、パキスタンの3ヵ国がある程度の核と短・中距離ミサイルを保有している。

 イスラエルは周辺アラブ諸国に対する自衛のためであり、インドとパキスタンはお互いに対する抑止力と理解している。

 つまり目的がハッキリ分かっているのに対して、北朝鮮の核・ミサイル開発にはそうした目的が明確でないところが問題だ。

 北朝鮮の核・ミサイル戦力は、核爆発物の数だけは3ヵ国にまだ及ばないが、すでに水爆の実験に成功しており、ミサイルの数と種類では3ヵ国を遙かに上回って、米国本土に届くICBMクラスの長距離ミサイルも持つに至った。

 つまり、ことし急速に進展した核戦力は、すでに5大国に次ぐ6番目の核大国にのし上がるまでになった、と認めざるを得ないのである。

 そういう自称「核強国」になってしまった北朝鮮が、その虎の子を放棄や廃棄するはずがないというのが常識だろう。

 歴史的には、冷戦下の南アフリカ共和国が、密かに製造した核爆発物6個を再び密かに解体廃棄し、文書も何もかも処分したと1993年に公表した例がある。

 これは、少数白人の政権が自衛のために核を必要と考えたが、後に黒人指導者マンデラに政権を渡さざるを得なくなり、黒人の国に核を残さないとして解体したというハリウッド映画さながらの実話である。

 この実例はどう見ても例外であって、北朝鮮には当てはまらないが、南ア程度の国であっても技術支援国があれば(おそらくイスラエル)、核兵器を持てるという証拠でもある。

 米国がいちばん恐れているのはこの拡散可能性である。北朝鮮が米国を攻撃する可能性は低いと見て、本心では中南米の反米左翼政権に核の技術を輸出して外貨を稼ぐ事態を警戒している。

 日本は実際には何もできないので、日米連携を固めて圧力強化を叫ぶしか手はない。

 韓国は北の核には鈍感で、半島統一が実現した暁には、核があれば日本に対して優位に立てるという幻想を抱いている。

 米国が当然に考える落とし所は、何らかの制限を北に呑ませる形で、核戦力の現状を認めるということになろう。
 しかし、それは日本にとっての外交完全敗北を意味する。

 だから日本の専門家としては、そういう可能性に触れず、ああでもないこうでもないという堂々巡りの議論を続けるしかないのである。
(おおいそ・まさよし 2017/12/25)


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