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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No232
    by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成30年7月30日

         ガラ携の次はガラ軽(自動車)でいいのか

 世界的また歴史的に、自動車と農産物が貿易摩擦の2大核心であることは常識だ。アメリカはこの2つともで最強国であるため、アメリカが本気になって単独の利益を主張すると、一気に世界は緊張し、貿易戦争の危険が芽を出すことになる。

 トランプ大統領はまず安全保障を口実に、鉄鋼とアルミの輸入に関税をかけた(25%と10%)。
 これはいわば導火線で、中国やEU、カナダ、メキシコなどがすぐ報復関税を発表すると、怒ったトランプはいきなり爆弾本体の自動車を持ち出し、25%の関税を検討すると宣言した。

 これでヨーロッパ側は頭を下げざるを得なくなり、7月25日にホワイトハウスを訪れたEU委員長(大統領に当たる)は、大豆とLNGの米国からの輸入を増やすと約束した。
 自動車の関税については、トランプは何も約束しなかったようだ。

 自動車が強力なテコであることは明らかで、EU側は中国が報復として米国産大豆を制限し始めたため、余剰になる分を買い取る羽目に陥ったわけである。

 絵に描いたような多角的貿易戦争の始まりのように見えるが、日本も例外扱いはされていない。

 鉄鋼とアルミは、中国製品と異なり、日本の製品は品質が高く、需要家にとってすぐ代替品を入手することができないので、政府も業界も慌ててはいない。
 
 自動車は日本のアキレス腱である。

 米国は日本からの輸入乗用車に2.5%の関税をかけているが、日本は米国産のいわゆる「アメ車」輸入に関税をかけていない。
 だから日本のほうがトランプに関税をゼロにせよと要求すべきであって、日本が譲歩する余地はどこにもなさそうに見える。

 ところがアメリカ側は、日本が一貫して「非」関税障壁を維持していると見ているのである。

 日本はその弱みを自覚しているので、自動車摩擦では強気を出せないという事情がある。少し詳しく説明してみよう。

 日本には歴史の長い「高額の教習所産業」「高額の課税・課金・過剰整備」「メーカー系列の販売店」そして「軽自動車」という4つの特異な制度があり、これで自動車産業という日本最大の経済分野が成り立っているのである。

 当コラムでは6年前にこうした問題を指摘し、国民から自動車関係で罰金的税金と罰金的課金を年間12兆円前後、すなわち消費税でいうと6%相当を行政が吸い上げていると試算した(「異様なクルマ罰金国のTPP開国」2012/11/25)。

 そこでは「メーカー系列の販売店」と「軽自動車」の2つには触れなかったが、米国側が問題視しているのは主にその2つなのである。

 どっちにしても、また4つの特異な制度の全部にしても、特にアメ車を対象にした障壁ではなく、すべての内外産の車を対象にしている。

 現に、ベンツ、BMW、フェラーリなど欧州の車は日本でバカ売れしているではないかと反論したくなるだろう。

 しかしアメリカ側からすると、まずメーカー系列の販売店網を独自に作らなければならないというのが納得できないのである。

 日本では、たとえばローカルな起業家が販売店を設立して、トヨタや日産などから売れ筋の人気車を仕入れて、一堂に展示してお客に選ばせるというようなことは不可能だ。
 アメリカではそれが当たり前なのに、日本ではできない。

 法律の問題ではなく、商慣習でそうなっているのである。

 この壁にぶち当たって、フォードなどアメ車のメーカーは、日本に進出しても必ず失敗して撤退するという屈辱を味わっている。

 また、軽自動車という特別な規格は、戦後の日本が政策の誘導でモータリゼーション(クルマ社会進展)を加速するために工夫され、結果として大成功したと言える。

 しかし、米国のメーカーはそんな特別規格車を日本向けだけに開発する必要を全く感じない。それに近い小型車すら造ったことがないので、軽自動車(Kカーともいう)の存在と税・保険料などの優遇措置が、排外目的の非関税障壁だと感じてしまうのである。

 トランプ大統領は独特のコスト感覚を持っているようなので、実際にKカーを前にしたら、「日本メーカーはこんなオモチャを国内で売っておいて、アメリカには利益幅の大きい高級車を売りつけている」と、アンフェアの象徴として受け取るかもしれない。

 戦後の産業政策として成功しただけでなく、Kカーは排気量を360ccから660ccにパワーアップなどして生き残り、今日、衰退するどころか逆に新車販売の約4割を占めるまでに至っているという。

 しかし、グローバル市場を前提にしない(できない)国内専用のメカがいつまで生き残れるだろうか。

 かつて携帯電話で世界をリードした日本が、その成功ゆえにスマートフォンに乗り遅れ、「ガラパゴス化」になってしまった苦い経験がある。
 
 同じことがノートパソコンでも液晶テレビでも起きた。東芝、シャープ、SANYO、etc.。

 トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」ごり押しを、ゴルフ仲間のシンゾーが柳に風と受け流すのも外交だが、ガイアツを逆手にとって、次の明らかな「ガラ軽」を未然に防ぐという知恵がどこかにないものか。

 今や販売台数世界一にのし上がった「ルノー・日産・三菱自」連合のカルロス・ゴーン総帥を、日本の経済司令塔に迎えてはどうだろう?
(おおいそ・まさよし 2018/07/30)


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