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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.236
   by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成30年11月28日

          自分ファーストと民族ファースト

 グローバリズムに対する反感が「○○ファースト」となって地球(グローブ)の上を覆っている。

 トランプ米大統領の意地っ張りとも見える反移民政策と、一見関係なさそうなカルロス・ゴーン会長逮捕に対する、仏メディアの異常とも言える反日・反日産報道は、実は同じ性格の○○ファースト現象で説明できる。

 当コラムの昨年2月号で、「移民国家アメリカ」の本当の意味は、先住移民が新入移民を排斥することの繰り返しだということを詳しく説明した。今回はその続きのようになる。

 アメリカの歴史上、アイルランドからの移民は白人でありながら黒人よりも差別された。それがたまたま南北戦争(1861〜65)では生活のために北軍に身を投じ、勝ち組になったおかげで肩身が広くなった。

 ケネディー大統領の曾祖父は1849年に移民しているので、この時代の経験者である。その孫が禁酒法(1920〜33)をうまく利用して巨富を築き、4代目のジョンを大統領にまで押し上げたことはよく知られている。

 トランプの祖父がドイツから移住したのは1885年と遅く(日本では明治18年)、しかも1917年には米国がドイツに宣戦布告、第1次世界大戦に参入している。ドイツ系が肩身を狭くしたことは想像に難くない。

 ちなみに、この祖父が移民したとき、係官が故意かミスか「Trumpf」の末尾の「f」を落として記入したという。アメリカ人になりたいならそれらしい名前にしろ、という意地悪だったかもしれない。

 しかしそのおかげでグローバルに親しみやすい名前になり、ひいては孫が大統領にまでのし上がれたと感謝すべきだろう。

 トランプ家が移民としては後発組だと分かると、新入移民を排斥するという法則にしたがって、それ以後に入ってくるメキシコ・中南米系(のちヒスパニックと総称)やイスラム系を嫌うのがよく理解できるだろう。

 話変わって、フランスのメディアがゴーン会長を逮捕した日本の司法制度や、日産の経営陣を批判、非難するのは、フランスが欧州文明の頂点にあるという「中華思想」がDNAにあり、さらにその頂点がかつての植民地のレバノン人を総督として、日産の管理統率に派遣したという傲りにつながっているからである。

 一見グローバルに見える経済関係が、実は歴史的な上下関係に基づいているという実情が、この事件で明らかになったわけである。

 国内だけで見れば、子会社が親会社を上回る優良企業に成長して、「親孝行」を称賛される事例は決して珍しくない。
 しかし、それが国を越えた関係でそうなると、そこに「民族ファースト」が大きな障害となって現れるわけである。

 日本人が日産を日本の会社だと思うのも「民族ファースト」だが、フランス人がルノーの子会社だと思うのも間違ってはいない。
 
 もともと「植民地とは搾取するもの」というのが、日本以外の民族の常識だ(った)。

 例外は日本だけで、異国や異民族を同化するのが使命だと考え、膨大な資源を投入してインフラや教育を普及させ、国内を後回しにして京城や台北に帝国大学まで設立した。

 すなわちフランスと日本は相性が悪いというほかはない。今や日産の株式43%支配からの配当金が、ルノーの利益の半分を超えている状態だ。
 フランス政府が日産を手放すという可能性はゼロだろう。

 日産植民地の反乱をどう鎮圧するか、マクロン大統領はアルジェリアを独立させたドゴールに学ぶことができるかどうか。けだし見ものというしかない。(おおいそ・まさよし 2018/11/28)


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