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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.244
   by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

令和元年7月29日

      なぜ韓国メディアは事実を報道しないのか

 国際政治の諸問題を論じるとき、「分析ツール」という概念が有効に働くことがある。これは、例えばトランプ米大統領の言動を分析する場合、あらゆる思考と行動が「自己を最大限にアピールする」ことが目的だと理解すると、すべてがよく分かるということである。

 トランプは不動産王という事業家の顔と同時に、テレビのリアリティー番組でシロウトをいじり倒す司会者として、名前と顔を全米に売りまくった。
 大統領選挙に名乗りを上げたのも、自分の商売に役立つという打算のためであって、当選など考えてもいなかったといわれる。
 おそらく、その通りだろう。

 そういう「トランプ分析」を、現在と将来の対米外交の基本に据えなければならないということは、誰にでも理解できるだろう。

 同じように韓国の異常な対日態度を分析するとき、有効な分析ツールは「本卦(ほんけ)還り」ではないかと考えられる。
 これは本来の還暦という意味ではなく、歴史の遺伝子が頭をもたげてきたという認識である。

 約150年前の明治維新後、新政府は天皇名の国書を朝鮮王国に送ったが、朝鮮政府は「皇」や「勅」の文字は中華の皇帝しか使えないとして突っ返した。この故事はよく知られている。

 朝鮮は何百年も前から、日本には天皇という至高の存在がいることを知っている。実力を持つ将軍が天皇に任命されて国を治めているということも知っている。
 それなのに、徳川将軍(朝鮮の目からは王)の権力が消え、日本が欧米諸国の圧迫を受けている状態を見て、天皇の新政府など認めないと虚勢を張ったわけである。

 今年2月、韓国の国会議長という三権の長が、「日王が来ておばあさん(元慰安婦)の手を握って謝罪すれば、すべて収まる」と言い放って日本国民を激怒させた。
 
 前々大統領の李明博(イ・ミョンバク)は保守派政権だったが、左派大統領でさえやらなかった竹島上陸を強行し、その直後には「日王が来たがっているが、来るなら(謝罪の)言葉ではすまない、(反日活動家の)墓前で土下座させる」と公言した。

 天皇を「日王」または「倭王」と蔑むことが、上は三権の長から新聞記事に至るまで、韓国の日常になっていることを、日本国民の何パーセントが知っているだろうか。

 また、それが150年前への本卦還りだということを、何人の韓国民が意識しているだろうか。

 例の国会議長はインタビューで「日王」と呼んだ後、さらに続けて「あのオッサン」とまで重ねているのである。日本政府が抗議しても逆に開き直ったままだが、この議員は公式交流組織である韓国側の「韓日議員連盟」の会長だったというから呆れるほかはない。

 今月初めから日本政府は 韓国への半導体製造素材3品目の輸出手続きを、優遇措置の簡略形式から通常監視形式へと変更したが、韓国官民の逆上ぶりは尋常ではない。

 与党議員は単なる手続きの変更を「経済侵略」と非難し、平和の祭典のオリンピックを開催する資格がないとまで、外国メディアに訴える挙に出た。
 民間では日本製品の不買・不売運動が熱を帯び、日本車への給油を拒否するスタンドまで出現している。

 この原因は、韓国のメディアが日本に関しては「すべて歪曲して報道する」という習性が根付いているところにある。
 
 どうしてかというと、韓国の議員や閣僚・官僚、大学教授などの教員や知識人、財閥、そして大手メディアも加わって、現代の「両班」(ヤンバン)というべき支配層を形成しているからである。

 両班は、およそ千年前から高麗、李氏朝鮮を通じて、民衆を支配し搾取してきた特権階級のことである。
 明治初期に西欧人の旅行家たちが残した記録では、「世界一傲慢な貴族階級」とか、「箸と本より重いものは持たない」などと酷評されている。

 韓国の受験戦争や就職活動が日本よりはるかに厳しいことはよく知られているが、その理由はあまり理解されていない。
 日本ではあり得ないことだが、韓国では「現代の両班」に入るためには一流大学に入るのが最初の関門である。

 その次の就職に失敗すれば、被支配層つまり人生の敗残者になるしかないのである。
 
 韓国の反日態度が年を追ってひどくなってきたのは、それだけ「本卦還り」が国内的に進行しているからだと分析できよう。

 保守系のイ・ミョンバク大統領も、「告げ口外交」で日本を貶めまくったパク・クネ大統領も、そして学生運動あがりの左派政権であるムン・ジェイン現大統領も、民主政権でありながら同じようにあたかも皇帝のように見せかけ、なるべく姿を見せないように振る舞っている。

 当然ながら、部下はご機嫌をうかがい、都合の悪い情報は耳に入れないように行動することになる。だから、ムン大統領は姿をあらわすと、日本に関して認知障害ではないかと思われるほど呆れた発言を連発することになる。

 かくて疑似皇帝ないし「自演皇帝」の元に広範な両班が支配階級となり、メディアも重要な一部として利益を享受している。

 政権の重要ポストに大手メディア出身者が多く登用されている事実を知れば(現首相も元新聞記者)、歪曲されない客観的な日本の姿を韓国民に伝えることは、全く期待できないと分かるだろう。
(おおいそ・まさよし 2019/07/29)


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