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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.248
   by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

令和元年11月30日

        ムン政権の侮日外交パターンが判明

 日本に関心を示さず、もっぱら北の独裁者にすり寄る外交を進めてきたムン・ジェイン大統領だったが、日本が安全保障上の観点から貿易管理強化に出たところ、こんどは狂ったように日本非難に全力を挙げ始めた。

 この豹変ぶりを分析すると、韓国全体の対日姿勢がどんどん変化してきたことがよく分かるのである。

 この変化をひとくちで言うと、かつての「日本には負けたくない」というサッカーや野球の試合の「競合」心理から、現在は「日本に負い目を感じたら、直ちに逆転させなければ満足しない」という「優越」心理にレベルが上がったということである。

 これは、いわば「マルウェア」(いわゆるコンピュータ-・ウイルス)と同じようなもので、自動的に脳内の情念が「日本を悪者にして優位な地位に立つ」ように行動することになる。

 実際の例を2つ挙げよう。第1は、昨年12月に、日本の哨戒機が韓国の駆逐艦からいきなり射撃管制レーダーを照射された事案だ。

 日本が抗議し説明を求めると、韓国側は初め「遭難した北の漁船を探すため、全レーダーを作動させていた」と釈明した。
 ところがその日本機は現場を撮影していて、漁船らしき小舟がすぐそばにいて、救助はすでに済んでいる状況だった。

 そう反論すると、韓国は突然釈明をやめ、「日本の哨戒機が低空飛行で脅しをかけてきた。国際法違反だ」と攻撃に出てきたのである。
 しかも国防相が「今後も同じことがあれば強力な措置をとれ」と指示し、それが韓国の言い分の証拠だとした。つまり、事後に証拠を捏造したわけである。

 このパターンは、実はその5年前に起きた事例を模範にしたのではないかと思われるのである。
 それが第2の事例で、2013年12月に、自衛隊が南スーダンで展開する国連平和維持活動(PKO)に施設部隊(工兵隊)を派遣していた際の「事件」である。

 同じように派遣されていた韓国軍部隊の近くまで内戦が近づいてきたため、韓国軍の指揮官は軍用銃の弾薬の手持ちが少ないことを憂慮して、自衛隊の指揮官に少し貸してくれないかと電話してきた。

 自衛隊の指揮官はすぐ本国に報告し、防衛省は直ちに内閣に連絡し、安倍内閣は「安全保障会議4閣僚会議」を開いて正式決定し、迅速に現地の自衛隊から韓国軍部隊に1万発の弾薬が手渡された。

 問題はその事実を日本政府が発表した途端に生じたのである。韓国政府は、「そのことを公表しないという約束があったはずだ」と怒り狂って見せたのである。

 日本政府はビックリで、そんな約束をするはずがないと反論した。日本には「武器輸出三原則」があって、こっそり現地部隊が外国軍に弾薬を売ったり貸したりしたら大変な政治問題に発展する。

 日本政府がそう反論すると、韓国政府は奇想天外な対日攻撃を始めたのである。曰く「日本に貸してくれと頼んだ事実はない。現地の国連事務所に相談しただけなのに、それを聞きつけた日本が勝手に押しつけてきた」と言い出したのだ。

 そして数日経って、韓国から予備の弾薬が届いたとして、現地の韓国部隊は国連事務所に日本から受け取った1万発の弾薬をドサッと積み上げて帰って行った。

 「ほら、これが俺たちの言ったことが正しいという証拠だ」というあのパターンである。

 今回、韓国が今まで以上に逆上して日本攻撃を強めているのは、日本のほうから貿易管理を強化し、韓国を最優遇のホワイト国(グループA)から格下げしたからだと考えられる。

 今の韓国は、この状態に心理的に、つまり情緒的に、耐えられないのである。反射的に「この状態を逆転させなければならない」と考える。
 大事なことは、イーブンに戻すのではなく、逆転させて日本を下に置かなければ心の平安が得られないのである。

 そのための手段に困り、お決まりのアメリカ頼みで日本に圧力をかけさせようと企んだ。それが裏目に出て、アメリカは中国・北朝鮮・ロシアに対する米国の同盟関係を危険に晒す気かとあきれ果てたわけである。

 つまり、この一連の韓国の悪あがきは第3の事例と見て差し支えない。それに第4の、もっと重大な事例と言えるものが底流に控えている。

 いうまでもなく、韓国大法院(最高裁)が昨年10月、戦時労働者(徴用工以外も含む)の訴えを認め、日本企業に賠償するよう判決を下した件である。

 これはムン大統領が巧妙に仕組んだ心理的報復といえるものだ。日本に支配されていた過去を乗り越えるためには、現在の日本を支配下に置けばいい。
 すなわち、韓国の司法に日本を従わせることこそ、ムン・ジェイン個人の願いだと推測できるのである。

 ムン・ジェインが法律家であることを忘れてはならない。師と仰ぐ盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領(2003-08)のもとで、ムンは最側近として勤め、この問題では日本の主張を認める調査報告をまとめている。
 すなわち、韓国の個人に対する補償は韓国政府が行うという1965年の日韓合意を、盧武鉉政権の幹部として認めていたのである。

 その過去の自分を臆面もなく乗り越え、日本を支配下に置くことに情熱を燃やすということは、韓国の社会全体がそのレベルまで、日本侮蔑の程度をアップしてきたということを意味する。

 つまり、被告とされた日本企業の1社でもいいから大法院の判決に従うことが、大統領を始めとする韓国民全体の狙いなのである。

 もちろん、そうなれば勢いが付いて、1社では不満だ、どこまでも日本を追求するぞという、おなじみの「慰安婦パターン」に突き進むことは目に見えている。
(おおいそ・まさよし 2019/11/30)


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