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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.249
   by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

令和元年12月29日

         大変動時代を知る3つの分析法

 正確に今年、2019年からというわけではないが、世界史的な大変動の時代に入ったという認識が、今年、一般の常識にまでなったことは確かだろう。

 この変動をどう理解するか、いろいろな専門家たちが頭脳を絞って分析しているので、ざっと紹介しておきたい。

 まず第1に挙げられるのは「覇権国」VS.「挑戦国」という2分法であろう。いうまでもなく、冷戦終結後の世界で唯一の覇権国だったアメリカに対し、新興の中国があからさまな挑戦を仕掛け、貿易戦争から新冷戦と呼ばれるほどの対決に発展したのが今年である。

 この構図では、トランプ米大統領の特異な個性が大きく影響しているように見えるが、実際は前任のオバマ大統領が「もはや世界の警察官ではない」と宣言しており、自ら覇権国の頂点を過ぎたことを自覚していた。

 対照的に中国は習近平が国家主席になってから、一気に政治・軍事・経済のすべての面で覇権を目指す意図を明らかにし、統治理念でも西欧の民主主義でない独自の思想で世界を指導すると宣言した。

 オバマ前政権では、中国と協調し「G2」の世界でいいのではないかという考えもあったが、中国の野心があまりにも明らかになった現在では、そんな甘い見方は全国レベルで逆転した。
 中国の覇権獲得を阻止し、世界は「Gゼロ」に向かうのではないかという見方が出てきている。

 第2に挙げられるのは、古典的な「地政学」の一派が復活したような2分法である。これは「ランドパワー」(大陸勢力)VS.「シーパワー」(海洋勢力)のせめぎ合いの歴史を意識している。

 すなわち、歴史的に英米日などが「シーパワー」の代表で、中露独などが「ランドパワー」の代表だったと考える。
 
 ここでも問題は中国である。ランドパワーの典型だった中国が、習近平の天下になってから加速度を付けて海軍力の増強に邁進し、太平洋から南シナ海、インド洋、さらには北極海にまで手を伸ばしてきた。

 シルクロードの現代版といわれる「一帯一路」はランドパワーとしての拡張戦略であり、海洋進出はシーパワーとしての世界支配戦略といえる。

 つまり、中国は地政学が分類した2つのパワーを両方、兼ね備えようとしているのである。

 現段階ではまだ太平洋の西側の支配権をめぐって、圧倒的なシーパワーのアメリカに挑戦し始めたところだが、南シナ海はもう完全に手中に収めた。
 
 第3に挙げられるのは、まだあまり知られていないようだが、歴史上の「大帝国」が復活を夢見て動き出している事実である。

 中国はもちろん、ロシア、トルコ、そしてイランもその範疇に入るだろう。

 ロシアは、旧ソ連邦時代にロシア人を意図的に、周辺諸国に移住させる戦略を推進した。いまそうしたロシア系、すなわちロシア語を話す住民を保護するという名目で、ロシアの支配を再び及ぼそうとしている。

 その意図を見抜いているバルト三国やベラルーシ(旧白ロシア)、ウクライナなどは旧西側(EUやNATO)に対処を求めているが、アメリカが「自国ファースト」なので、まるで頼りにならない状態だ。

 トルコのエルドアン大統領は、中欧から中東アフリカまで版図を広げた「オスマン帝国」の皇帝のつもりでいるらしい。
 同じ大帝国だったロシアのプーチンとはウマが合うらしく、昔は大戦争を戦ったこともあるが、いまは核大国のロシアにすり寄って、中東でうまく勢力を分け合おうと考えているようだ。

 その中東では、イランがアラブ諸国の分裂に乗じて、かつての「ペルシア帝国」の夢を見ている。
 同じイスラムでもシーア派の総本山として、湾岸の向こうのシーア派アラブに提携を呼びかけ、反米を旗印にロシアとも親交を結ぼうとしている。

 イランは原子力発電をロシアから、核とミサイルの技術を北朝鮮から入手していると言われている。

 重要なことは、昔の大帝国3つは、協調して中華帝国の膨張をせき止めることができる位置関係にあるが、同時に中華帝国がこの3つを取り込んだ場合には、もう世界覇権は成就したも同然ということになる点である。

 中国は「中華民族の偉大な復興」という概念で、台湾はもちろん、華人華僑が多いマレーシア、シンガポール、カンボジア、タイなどの東南アジアは事実上の支配圏とみなしている。

 こう見てくると、朝鮮半島の運命はもう決まっていると言えるだろう。日本はどうかというと、まだ決まっているとは言えないが、きわどいところに向かっていることは明白だ。

 日本は鎌倉時代の元寇のあと、外国の侵略を受けず、内戦(戦国時代)にも干渉されずに済んだのは歴史の奇跡だったのかもしれない。

 いわゆる鎖国(実際は幕府による貿易独占体制)で国を守れた時代は、もう戻ってはこない。幕末の日本が戻ってくるだけである。
(おおいそ・まさよし 2019/12/29)


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