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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.252
   by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

令和2年3月30日

       コロナに助けられた(?)安倍首相

 世界各国の指導者が新型コロナウィルスに振り回されているが、今までのところ日本が、すなわち安倍首相が最もうまく立ち回っていると言えよう。

 まだ中間報告にも至らない段階にあるが、日本は、世界が驚くほど感染者と死亡者を少なく抑えている。
 感染者数ではアメリカがあっという間に中国を抜いてトップになった。この順位では、日本は世界の20数番台にすぎない。死亡率は世界最低クラスにとどまっている。

 この間、安倍首相はいくつものプラスを勝ち取っているが、あまりニュースにはなっていない。
 しかし、首相が「得をした」ことは意外に多いのである。

 まず、首相の支持層からも強い反対が表明されていた「習近平・中国国家主席の国賓訪日」を、自然に消滅させたことが大きい。

 コロナ禍がなかったら、まさに「桜が咲く頃」、つまり3月中に周主席が国賓として招かれ、来日した主席は正式に(つまり勝手に)天皇陛下に訪中を要請する(=迫る)ことがほぼ確実だった。

 招待したほうが取り消すのは外交儀礼からしてあり得ないので、安倍首相は内心「コロナさまさま」と思っているのではないだろうか。

 同じように、5月9日に予定されているロシアの「戦勝75周年記念式典と軍事パレード」にも、首相は参加して首脳会談を開く狙いがあったようだが、これもコロナとの戦いを理由に断ることができる。

 日ソ中立条約を破って日本に攻撃を仕掛け、日本の降伏後に北方領土を占領して返そうとしないロシアに、なぜ安倍首相が戦勝祝いに駆けつけなければならないのか。
 日本国民が等しく疑問を感じざるを得ない状況だった。

 3つめの「プラス」は、東京オリンピック・パラリンピックを、主体的に「1年程度の延期」と提案し得たことである。

 昨年、真夏の東京の暑さを理由に、国際オリンピック委員会(IOC)は日本の頭越しに「マラソンと競歩は札幌開催」と決めた。そういう権限があるという上から目線に、日本人は皆あっけにとられたものだ。

 そのマラソン問題とは比べものにならないほど重要な開催自体の危機に際し、規約にも歴史にもない「延期」を提案し、IOCに呑ませたのが安倍総理のリーダーシップであるなら、これは特筆に値する。

 現に、その直後のG20首脳の電話会議で、首相がその経緯を報告し、満場一致の支持と称賛を受けている。

 第4には、昨年秋の消費税アップが日本経済に想定以上の下降圧力になったのを、コロナ騒ぎが覆い隠したことである。

 もともと6年以上にわたった景気回復が終わると分かっているのに、延び延びになった消費税増税を断行したため、景気が大きく落ち込むことは予想されていた。
 総理自身も「アベノミクス」という一枚看板を口にしなくなって久しい。

 そのマイナス効果を、新型コロナウィルスがすべて引き受けてくれたわけである。

 決して意地悪な見方ではなく、今まではこうだったという分析である。これからも、安倍首相に都合よく物事が進んでいくという保証はない。

 しかし、もし日本でのコロナ封じ込めがこのまま推移し、いわゆる「感染爆発」の状態にならずに来年を迎え、春か夏に東京5輪を成功裏に終えることができたら、安倍首相の功績は歴史に残ることになるだろう。

 すなわち、その9月末の自民党総裁選挙では、本人が望めば4選があり得るし、その前か直後には総選挙で自民党大勝ということも考えられる。 

 また、その背景には、今年11月のトランプ米大統領の再選というシナリオがある。米国民は攻撃された戦争には奮い立つという国民性がある。日本はそれを知らずに真珠湾を攻撃し、手ひどい反撃に会った苦い経験を持っている。

 いまトランプ大統領は、コロナに攻撃される「戦時下の大統領だ」と極めて巧妙なキャンペーンを打ち出している。つまり、彼もコロナに助けられて再選をほぼ確実にしたというところだろう。

 そうなると、トランプ、習近平、プーチンなど、世界のくせ者指導者たちとうまく併走してきた安倍首相を、来年9月末で降ろすことが日本にとって得策かどうか。

 そういう流れになるかもしれないという現下の状況である。
(おおいそ・まさよし 2020/03/30)


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