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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.257
   by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

令和2年8月29日

        共和、民主どっちが問題多いか

 米大統領選挙に臨む両党の全国大会が終了し、民主党はバイデン前副大統領(77)、共和党は現職のトランプ(74)に決定した。

 今回の大統領選挙は色々な意味でかつてないほど問題点が多いので、この際できるだけ整理しておきたい。

 まず、投票日は憲法で「11月の第1月曜日の次の火曜日」と規定されているので、これは何があっても動かない。
 なぜこういう表現になっているのかというと、13州で連邦国家を宣言した当時、農作業の合間に馬や馬車で投票所に行かねばならなかったからである。

 月の初めは忙しい。安息日の翌日は輪をかけて忙しい。だから月曜日を避けて火曜日にしたと言われている。

 今回はコロナ禍という障害のため、郵便による投票が格段に増える見込みで、これが結果の攪乱要因になると危惧されている。

 通常投票の結果が、大きくどちらかの勝ちと出れば問題は起きないが、僅差だと郵便投票の結果待ちとなり、これが時間と手間がかかるので問題が起きるという恐れだ。

 どちらかの陣営が待ちきれずに「勝利した」と宣言するかもしれない。特にトランプならやりかねないと囁かれている。
 そういう混乱が起きると11月末の当コラムの時点でも結果が確定していないかもしれないのである。

 つぎに、両候補の年齢が問題で、どちらが当選しても4年間の任期を全うしない可能性がある。

 この危惧はバイデン候補のほうが深刻で、当選しても就任時には78歳と米国史上最年長の大統領就任者となる。

 したがって今から2期目はまずない、という前提の候補者と言えよう。それだけならまだマシで、バイデン候補はかねてから認知症の初期とかアルツハイマー病ではないかと噂されている。そういうような失言が実際に多いのである。

 ということは、つまり任期中に退任する可能性も高く、その場合は副大統領が自動的に昇格してバイデンの任期を埋めることになる。

 だからこそ副大統領に誰を指名するかが重大事になるわけだが、バイデンは当選を重要視して、女性で黒人のカーマラ・ハリス上院議員を選んだ。
 これが吉と出るか凶と出るか。それが問題だ。

 ハリスは黒人を名乗るが、父はジャマイカ移民1世、母はインド移民1世の混血2世で、必ずしも黒人全般やアジア系全般にアピールするかどうか、すでに疑問視されている。

 おまけに日本ではあまり報道されないが、父はスタンフォード大学教授でマルクス経済学を教え、母も左派系の癌研究者だったという。
 2人は後に離婚しており、ハリスは母に育てられた。アメリカ国籍を得るための結婚だったという悪口も聞かれる(米国で生まれた子は米国人で、両親も米国籍を得られる)。

 それよりも重要なことは、アメリカでインド人、インド系のイメージはむしろ「エリート富裕層」であって、ユダヤ系や中国系に続く高学歴、高所得の異質な存在となっている。
 バイデン候補が狙う黒人や低所得の移民系、そして失業した白人労働者層を取り込む戦略に合わないのではないかという問題だ。

 ハリス上院議員は生まれも経歴もカリフォルニア州だが、北部には有名なシリコンバレーがあり、優秀なインド人が多く働いている。英語と数学に強いことでも知られている。

 彼らは高給取りであり、IT大企業の幹部にも多く登用されている。グーグルの経営トップはインド人であり、フェイスブックの創業オーナー(ユダヤ系)は中国系のハーバード大同級生と結婚している。

 ハリス自身の夫もユダヤ系の弁護士で、金持ちのイメージそのものだ。

 たしかにこれではバイデン・ハリスのコンビ(英語ではティケット)は、イメージが混乱しているのではないかと批判されてもおかしくない。

 また、仮にハリスが副大統領から昇格した場合には、次の自前の選挙の準備ができる上、更にその4年後も狙える。つまり2期8年プラスアルファという、かつてジョンソン副大統領がケネディの後に昇格した前例(自前は1期のみ)を、超える可能性が出てくるかもしれない。

 ではトランプ陣営はどうかというと、再選されたらされたで、アメリカはもっと混乱するのではないかという危惧が強い。

 なぜなら、政権の前半だけで辞任したマティス国防長官(退役海兵隊大将)が最近、トランプ大統領はすべてを再選に結びつけて決めていたと明らかにしている。

 それならば、再選された後はどうするのか。目標を失ったトランプ大統領は、「自分ファースト」を目標なしに、極限まで追求するしかないのではないか。

 これは恐ろしい事態であろう。アメリカだけでなく、世界がほとんど狂人のような振る舞いにどう対応したらいいか、頭を抱えることになるだろう。

 1つ考えられることは、副大統領や国務長官などの幹部と議会が手を組んで、トランプを退任に追い込むという可能性である(その前段階の大統領代行は憲法に規定)。

 この仮のケースでは、ペンス副大統領が昇格し、次の大統領選挙にはペンスかポンペィオ国務長官が挑戦するだろう。

 こう考えると、アメリカにとっても世界にとっても、「トランプ抜きのトランプ政権」が最も望ましいということになるだろう。皮肉のようだが、本音でもある。
(おおいそ・まさよし 2020/08/29)


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