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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.260
   by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

令和2年11月29日

       狙いは4年後を睨んだ影の大統領

 ドナルド・トランプという人物は、普通の人ではない。彼が今何を考えているのかを推測するには、彼の身になって何をするべきかを考える必要がある。

 トランプは骨の髄まで「ディール(取引)人間」であることが分かっている。外交も安全保障も貿易も、すべては「取引」として受け取り、相手にもそう受け取らせる。

 親の代からの不動産業者で、倒産の経験も重ねている。会社を故意に倒産させれば立ち直りがたやすくなるということも知っている。

 選挙中に指摘されたように、所得税をほとんど払っていないというのも、損失を大きく見せかけて、所得を小さくするという手法を駆使しているからだろう。

 こういう人生を歩んできたトランプは、大統領選の敗北すら取引の一過程にすぎないと受け取っているのではないだろうか。

 つまり敗北はそれで終わるのではなく、次の再起のスタート台ともなるはずだ。

 そういう見方を土台にして考えると、トランプ大統領はまだ諦めてはおらず、12月と来年1月に望みをかけているに違いない。

 12月8日には各州の選挙人が確定し、14日に実際の投票が州単位で実施される。このプロセスを妨害するために、トランプ陣営は法廷闘争を乱発している。
 もし1州でも選挙人投票に至らなかったら、決着は1月に持ち越される。

 ついでながら、選挙人は州ごとに下院議員数(人口比例)プラス上院議員(各2人)の合計数となっていて、おおむね各州の人口に比例している。
 最多数はカリフォルニア州の55人。アラスカ州などの人口過疎州では上院議員2人、下院議員1人なので、選挙人も3人にすぎない。
 選挙人は普通の有権者で予め名簿が決められており、連邦議員本人は除外されている。大部分の州では、一般投票の勝者が選挙人を総取りする仕組みだ。

 1月6日には上院議長を兼ねるペンス副大統領が、選挙人投票の結果をとりまとめて公表するという手続きがある。
 これが行われない場合、下院で、1州1票の多数決で大統領を選出することになる可能性が強い。

 下院は共和党多数の州が26州と優勢なので、トランプが26票、バイデンが24票で、逆転勝利が計算できる。

 こういう企てが全部失敗したとしても、トランプは共和党のオーナーとして向こう4年間は誰の追随も許さないだろう。大統領選に負けても、連邦下院では民主党が大きく議席を減らして負けているのだ。

 上院では未定の2議席のうち1つを共和党が取れば、過半数の51議席になる。民主と同数になればハリス副大統領が兼任する議長の1票で議決に負けるが、それでも上院は閣僚を含む政府幹部の承認権があるので、バイデン政権の人事は自由度を大幅に失うことになる。

 また、トランプ大統領は選挙人獲得数では大きく差を付けられたが、得票数はバイデン候補の8千万票に対し、7千4百万票と決して大きく負けてはいない。
 2人とも、アメリカの歴史上、前例のない多数の有権者を獲得しているのである。

 そうなると、4年後(実質3年後)にトランプに匹敵するような集票能力を持った新顔が、共和党に登場してくるだろうかと誰でも考えるであろう。

 「やはりトランプしかいない」という答が出てくるはずだ。

 4年後を目標とするには、「陰の大統領」として2年後の中間選挙に大勝する必要がある。中間選挙というのは大統領選挙がないだけで、あとは同じなので、政権与党に対して批判票が増える(議席を減らす)という傾向が見られる。

 したがってトランプにとっては有利な状況でまず2年後を狙い、そこで弾みを付けて大統領職に再挑戦することを考えているだろう。

 もし健康に問題が生じたら、自分の代わりに娘のイバンカを出すのではないかという予測もできる。
 4年後に、ハリス副大統領にイバンカが挑んだら、結構いい勝負になるかもしれないし、何より史上初の女性対決で話題性としては申し分ないと言える。

 退任したトランプが脱税や色々な不法行為で訴追されるだろうという見方もある。たしかにそういうマイナス面はあるだろうが、それも彼は長い人生で何度も経験済みである。

 富と権力の両方の使い方を知った陰の大統領が、これからどんな芸当を見せてくれるか、グローバルな規模の楽しみになった。
(おおいそ・まさよし 2020/11/29)


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