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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.261
   by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

令和2年12月30日

       中国が台湾、尖閣を奪取したい理由

 今年2020年はコロナ禍の1年だったと歴史に残るはずだ。しかし、それだけではない。

 中国が世界に対して牙をむいた年として、日本と世界の人々の記憶に残ることもまた確実である。

 中国は6月、香港に国家安全維持法(国安法)を直接適用し、反体制・民主勢力を壊滅させた。9月にはトップの行政長官が自ら「香港に三権分立はない」と明言し、中華人民共和国の直接支配を現実のものと認めるに至った。

 つまり、1997年に中国が「50年間は一国2制度を維持する」と約束したのを、その半分にもならない23年で、アッサリと反故にしたわけである。

 なぜそう踏み切ったのかは、武漢発の新型コロナウィルス拡散の責任から、内外の注目を逸らさせるためだったという見方もできよう。

 しかし、香港に対する強権行使だけでなく、欧米諸国に駐在する大使たちが任地国に対して脅迫的な言辞を吐いたり、コロナ調査を提唱したオーストラリアを貿易面で制裁するなど、信じがたいような態度を繰り返して年末を迎えている。

 中国政府を代表して記者会見を行う外務省報道官の言動が余りにひどく、自ら「戦狼外交」だとうそぶく始末で、こういう脅迫的な「戦狼外交官」が中国政府内で評価されていることが窺えよう。

 その風潮が習近平国家主席をして香港の「回収」にまで突き進ませたとも考えられる。

 日本が警戒しなければならないのは、習近平の年齢と任期から見て、尖閣諸島を確実に奪いに来るという事実である。
 
 習近平は一昨年、「主席、副主席は2期10年」までという規定を憲法から削除させている。現任期は2023年3月までなので、そこからさらに3期目を当然としているわけで、2028年までを前提としているはずだ。

 年齢を当てはめると、3期目はほぼ71歳から76歳までとなる。4期目もあり得るが、ひとまず76歳までに台湾を「回収」するという課題を達成しなければならないと考えるだろう。
 ここが恐ろしいところなのである。

 わかりやすくいえば、米国のオバマ大統領の8年間に、中国は南シナ海のほぼ全域を支配し、無人島や岩礁を埋め立てて大規模な軍事基地を幾つも建設した。
 つぎに、トランプ大統領の4年間の最終年に、香港の「回収」を断行した。

 そうなると、次のバイデン政権を横目で睨みながら、残る台湾の「回収」を数年のうちに実現させることになる。

 やっかいなのは、1992年に「中国領海法」を制定し、尖閣諸島を「釣魚島」などの名称で特定して「台湾の属島」と明記したことである。

 これで中国は却って自分で自分を縛ってしまった。仮に何らかの手段で台湾を「回収」したとしても、尖閣諸島を日本が支配していたら、台湾回収が完了したことにならないのである。

 そこで中国が南シナ海と同様、東シナ海のほぼ全域を手に入れようと戦略を立てる場合、台湾より先に尖閣諸島を支配し、大規模な土木工事で軍事基地化することを考えるだろう。

 それに成功すれば、地理的に近い台湾は実質的に海上封鎖を受けるような状況に置かれ、23年前の香港と同じ「虚構の自治区」になる屈服を強いられることになるだろう。

 逆に習近平がそれに失敗して任期を終わることになれば、共産党王朝の3代目皇帝は歴史の審判で裁かれる、あるいは無残な末期(まつご)を迎えることになるかもしれない。

 そう考えると、日本の尖閣諸島がいかに危機的状況にあるか、誰にでも分かるのではないだろうか。

 日本人の側に盲点があるとすれば、5島からなる尖閣諸島が自然のまま存続すると頭から信じて、すべてを判断している点ではないか。
 中国は南シナ海支配のために、鉄とコンクリートで自然の島々を跡形もなく消し、滑走路まで建設して要塞化したことを想起すべきだろう。

 習「皇帝」としては、日米とも台湾とも戦争をする気はない。そんな下手な手段ではなく、アメリカが手出しできない状況を作り出し、熟柿が自然に落ちるように尖閣と台湾を手に入れようとしている。

 12月に来日した王毅外相(元駐日大使)が記者会見で図々しくも、「中国領海に日本漁船が侵入しないように取り締まれ」と要求したように、世界に向けて尖閣諸島をすでに中国が実効支配しているように宣伝している。

 時間はもう「数年」しかないのである。

 バイデン次期大統領が正常な国際感覚を身につけているかどうか、まだ誰も自信を持って語ることはできないようだ。
(おおいそ・まさよし 2020/12/30)


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