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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.264
   by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

令和3年3月30日

      グアムに海自拠点を、という戦略的発想

 政策を提言するのが当コラムの趣旨なので、米国にバイデン新政権が生まれたこの機を捉えて、日本から独自の安全保障構想を提案すべきだと考える。

 それは戦略的と戦術的の2層から成る。

 まず戦略的レベルの構想だが、海上自衛隊の拠点を米国領土のグアムに置くことである。
 その名目は「海賊対策」とする。

 これは冗談ではなく、近年、東南アジアの最重要航路であるマラッカ海峡で、海賊事件が急増している事実に対処する必要があるからだ。

 日本は2009年から、アフリカのジブチ共和国に海上自衛隊の拠点を置き、ソマリア沖・アデン湾の海賊対策に従事して現在に至っている。
 それと同じ理由で、国内法の根拠を援用してグアムに同じ規模の水上、航空部隊を配置し、マラッカ海峡とその周辺を警戒監視する。

 実際には、日米などの多国籍部隊によるソマリア沖の海賊対策は功を奏し、現在はほとんどゼロに近いところまで事件は減っている。当初、海自の護衛艦(国際的には駆逐艦)は2隻体制だったが、現在は1隻に減らしている(P-3C哨戒機は2機体制)。

 したがって、約400名規模の派遣隊(うち陸自80名)を大幅に縮小し、その分をグアム拠点に移すことが可能だ。

 むろん、グアムに拠点を建設するには、ホスト国のアメリカが歓迎することが大前提だが、バイデン政権ならずとも、拒否することは考えにくい。むしろ諸手を挙げて歓迎するに違いない。

 アメリカには、日米安保が対等ではなく、片務条約ではないかという不満が長年くすぶっている。
 米国は日本を武力で守る義務があるが、日本は基地を提供するだけで米国を守る義務がない。

 この不満を、自衛隊がグアムに常駐することでほとんど解消することができる可能性がある。

 なぜならば、大陸や朝鮮半島から米国領土がミサイル攻撃を受けるとすれば、グアムが最初にターゲットになるのは自明だ。
 その場合には日本自衛隊のグアム拠点も一蓮托生とならざるを得ない。それを想定した上で拠点を設けるわけで、心理的にも初めから「片務」ではなくなるのである。

 日本もアメリカも、日米安保条約を改定する必要がないし、日本の憲法に抵触することもないので、要は政治的決断のみで実行できるのがメリットだ。

 マラッカ海峡周辺の東南アジア諸国が大歓迎することもメリットである。なぜならば、2006年に日本が主導した多国間の「アジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)」が成立し、情報センター(シンガポール)が機能している。

 日本がアデン湾監視の経験とノウハウを持って、実際のマラッカ海峡監視に乗り出せば、関係諸国の期待は大きく膨らむだろう。

 日本は、ジプチより遙かに近いグアムとの間で、頻繁に艦船、航空機、要員の交代や整備が可能なので、尖閣諸島や台湾の付近を護衛艦が頻繁に通行することになるだろう。

 また「自由で開かれたインド太平洋」構想に関与するため、英・仏・独が艦艇を派遣する計画を進めているので、彼らがグアムの海自拠点を頼りにするという展開も期待できよう。

 それが、戦略的構想の戦略的であるゆえんである。

 次ぎに戦術的レベルの安保構想だが、これはかねてから当コラムで提案しているように、米軍に尖閣諸島を積極的に使用してもらうことで、日本の実効支配を世界に誇示する案だ。

 国会でもようやく3月17日、参院予算委員会で自民党の北村経夫議員が質問したのに答え、外務省の有馬裕・北米局参事官が「尖閣諸島の久場島と大正島の2島を今後も米軍に提供し続けることが必要だ」と明言した。

 詳しく言うと、この2島は米軍占領下の1948年に米軍爆弾投下演習区域に指定され、72年5月の沖縄返還後も日米地位協定によって、現在に至るまで「射爆撃演習場」として米軍に貸与されている。

 78年以後は主として米軍機の更新に伴って実際の使用が停止しているが、これを再開してもらうことで、日本の施政権が及んでいることを証明できるのである。

 現在の世論の動向では、島の自然を破壊する爆撃演習は好ましくないが、爆発しない模擬爆弾を投下するほうが、実は戦術的安保構想に合っている。

 というのは、模擬爆弾を投下して、それを回収するという名目で、米軍艦艇が接岸し、米兵が上陸するという自然な使い方ができるのである。

 極端に言えば、毎日1個か2個の模擬爆弾を投下し、それを毎日のように回収に行けば、中国の「海警」(2月から第2海軍となった)は手も足も出せない上、日本の施政権に従った行動だと世界に知らしめることができる。

 米政府は、尖閣諸島が「日本の施政権下にあるから日米安保の適用範囲だ」という原理原則を崩していない。だから、中国はその前提を曖昧にし、なし崩しに「中国の施政権下にある」と世界に認知させようとしているのである。

 この狡知を無にさせるには、米国に当たり前の協力を求めるのが最も早道である。米国にとっては何のリスクもない演習の実施だから、日本の要請を断る理由はないだろう。

 特に、上述の戦略的安保構想とセットで日本が提案すれば、バイデン政権もこのセットのメリットの大きさが理解できるだろう。

 3月に入って、退任するインド太平洋軍司令官が議会公聴会で、「中国が6年以内に台湾に対して武力行使する危険性が高まっている」と警告し、次いで後任者も同様に「大半の人が考えているよりも遙かに近いと思う」と追随した。

 中国は尖閣諸島が台湾の一部だとみなしている。米国はそう見ていない。日本国内でも、米軍が小さな無人島のために戦って血を流すはずはないという見方がある。

 だからこそ日本は、この機会に独自の安保構想を、提案する必要に迫られているのである。
(おおいそ・まさよし 2021/03/30)


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