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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.265
   by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

令和3年4月29日

      後進国はなぜ先進国になれないのか

 一般のメディアが取りあげない重大問題の1つとして、昔でいう後進国がいまでも後進国でありつづけている事実を取りあげてみたい。

 というのは、わかりやすい実例として、3月に起きたスエズ運河での大型コンテナ船座礁事故の後始末が、まことに典型的な後進国現象を示したからである。

 運河を管理するエジプト政府機関のスエズ運河庁は、4月に入って船主の日本企業や関係する保険事業者側に対して約1千億円の賠償を要求し、13日に船舶差し押さえの決定を下した。

 専門家筋では、この事故の責任や損害の調査には2年もかかるはずだとし、総額でもエジプトの要求額の2〜3割になるだろうと見ている。

 それよりも重要なのは、約2万個換算のコンテナの中身であり、目的のオランダ・アムステルダム港に一日でも早く届けなければならない。
 その当たり前の常識に反して、エジプト政府は積荷ごと船を差し押さえ、乗組員(全員インド人)の上陸さえ許さないとした。
 
 これこそ後進国の後進国たるゆえんだと言わざるを得ない事案だ。

 エジプト政府の収入としてはスエズ運河通航料が重要だが、国の最大の産業は観光産業である。
 日本でもよく知られているが、観光客は「ボッタクリ」に遭うのが普通であって、たとえばピラミッド周辺でラクダに乗る場合、料金を取り決めて乗っても、降りるときに多額のチップを要求される。

 払わないとラクダから降りられないので、仕方なく払うことになる。つまり、観光客は自分自身を人質に取られているようなもので、ボッタクリを拒否できないのである。

 もう分かったであろう。この手法と全く同じことを、エジプト政府が堂々と、コンテナ船の事故をネタにやって見せているわけである。

 第2次大戦後の米ソ冷戦時代、新興独立国の囲い込み競争が激しくなり、そういう諸国へのゴマすりの一端として、後進国を発展途上国(Developing Countries)と呼ぶ言い換えが広まった。

 しかし、それから50年、60年も経過したが、途上国から先進国に発展した国は1つもない。
 先進国と後進国の違いは、発展の度合いの問題ではなかったのである。

 現在の中国がいい例で、経済大国として世界第2位に上がってきたが、中国国民以外は先進国として認めていない。ロシアも同じだ。
 朝鮮半島にも、東南アジア全域も、中東アフリカ、南アジア、中央アジア、東欧、中南米にも先進国は存在しない。

 事実を証明するのは難しいが、発展しなかった後進国は今、ほとんどが強権統治の政体である。これは結果としてそうなった、つまり先進国になれないので仕方なく強権統治になったのか、あるいは原因と結果が逆なのかどうか。

 やっかいなのは、強権統治の国ほど、「民主主義」を実践していると自画自賛する事実だ。ほとんどの国が何らかの形で選挙をしているから民主主義の国だと言う。

 しかし、民主主義を期待されたタイ、ミャンマー(旧ビルマ)、インド、トルコなども結局は先進国の尻尾さえつかむことができないまま、強権政治の罠にはまってしまった。

 エジプトも含め、これらの国々はみな親日国と言っていいが、それとこれとは別の話である。
 
 韓国は中国とよく似ていて、経済力は上がってきたが、並行して強権統治の色彩を強め、それが反日の原動力になっている。

 ロシアと北朝鮮を合わせて、反日の4大強権国ということになる。

 警戒しなければならないのは、これらの強権統治支配と「IT」時代が相性がいいという事実である。

 民衆を監視し、反対運動を押さえ込むために、監視カメラや顔認識技術を活用(悪用)する傾向が、急激な勢いで「発展」している。中国が典型的な例だ。

 そして、その効果、特に私権制限や個人情報の把握が新型コロナウィルスの封じ込めに役立ったとして、むしろ自慢の種として内外に宣伝されるまでになった。

 日本はかねてから「課題先進国」を自認し、高齢化や少子化、低成長経済などを世界でいちばん早く経験しつつあるのだから、それらの対策を先取りして世界に示すべきだと言われてきた。

 そういった日本が経験中の課題とは違うが、親日的な強権的指導者が多いことに着目し、日本外交の新たな舞台として、「後進国の強権統治化とIT技術の結びつき」という難題に取り組んでみてはどうだろうか。
(おおいそ・まさよし 2021/04/29)


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