国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.268 by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表) 令和3年7月29日 政治に生かせコロナと五輪の教訓 菅義偉内閣の支持率が7月調査で軒並み、危険水域と言われる30%近くまで下がってきた。 最も菅首相に批判的な朝日新聞では31%、経済紙の日経でも34%と6月から大幅に低下している。 この原因がコロナ対策と、東京五輪を巡る国民の批判と不満にあることは議論の余地がない。しかし、そうした世論を作り出すメディアが、基本的に菅総理に不満を募らせてきたことも、また事実と言えよう。 記者会見でも国会答弁でも、下を向いて誰かが書いたペーパーを読むだけとか、安倍前総理直伝のような「はぐらかし」に、左右両方のメディアが愛想を尽かした。 それで、世界に対する日本の義務である東京五輪でさえ、感情的反対派が急増した結果、世界の常識に反した無観客開催に追い込まれた(一部例外)。 昨年4月にも書いたことだが、日本の政治家はおしなべてコミュニケーション能力に問題がある。いやそういう能力に関心がなさすぎると言ってもいい。 昨年4月のコラムでも指摘したように、抜群にコミュニケーションの評判がよかったクオモ知事(ニューヨーク州)などは、次の大統領候補かと言われたほどだった。 ひるがえって、首相候補だとは誰も思っていなかった菅氏が首相になった。その人物がよりによって、最もコミュニケーションの下手な政治家のひとりだったというのも、単なる皮肉では済まされない。 前任者の安倍晋三首相も、第1次政権を病気で投げ出したときは、支持率が30%を割っていた。森喜朗首相がたった1年で退陣したときには、実に20%を下回っていた。 森首相はサービス精神が過ぎて失言が多く、左派メディアの格好の餌食になった。復権した安倍首相は長期政権になるにつれて、余計なしゃべりすぎで政治を混乱させた。 逆に、小渕恵三首相は20%台の低い支持率からスタートしたが、気軽に「ブッチフォン」をかけるなどの愛嬌のある人柄で人気を上昇させている。 菅首相はこの1年で、国民に話しかけるタイプの政治家ではないということを、あまりにもハッキリさせてしまった。 クオモ知事やジョンソン英国首相、産休を取った女性首相として知られるアーダーン・ニュージーランド首相などが、連日のようにテレビで国民に話しかけるスタイルを、自ら学び取ろうとしないことも日本国民に深い失望を与えてきた。 そうなると、東京五輪がどうにか成功裏に終わったとしても、その後に菅内閣の支持が目に見えて上昇するかどうか、甚だ疑問というしかない。 多少の好転はあるかもしれないが、それはむしろ、「菅内閣の仕事はこれで終わり」という国民の理解を示す現象であろう。 五輪閉幕後には総選挙と自民党総裁選が迫ってくる。この2つがいつ、どういう順で実施されるか不明だが、次の総理総裁は、国民とのコミュニケーションが何より重要だということを、充分に理解している人物でなければならない。 それにはやはり、菅氏のような土着型政治家でない、国際派の政治家が有資格者となるだろう。 現在、潜在的候補に名が上がっている中で、岸田、石破の世代を跳び越えて、河野太郎(ジョージタウン大)、茂木敏充(ハーバード大院)、林芳正(同)、西村康稔(メリーランド大院)、小泉進次郎(コロンビア大院)、といった米国留学組の閣僚経験者に若返ることが、緊急に望まれているのではあるまいか。 (おおいそ・まさよし 2021/07/29) |