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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.279
   by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

令和4年6月28日

     ロシアなど周辺3ヵ国が日本領土狙う(続)

 プーチンは9日、帝政ロシアの領土拡大で知られるピョートル1世(大帝)の生誕350年記念の行事で、「彼はスウェーデンを奪ったのではなく、取り戻したのだ」と公言した。

 これは現在進行中のウクライナ侵略を正当化し、「ウクライナを取り戻すのが目的だ」とロシア国民に刷り込もうという下心が見え見えだ。
 
 それだけでなく、自分を、歴史に輝くロシア帝国の正統な後継者だと印象づける思惑も透けて見える。彼の頭の中は、すでに「プーチン大帝」を夢見ているのかもしれない。

 ところで、日本領土を狙うのはロシアばかりではない。いうまでもなく中国と韓国の意図と、その策略を知っておかなければならない。

 ロシアのウクライナ侵略が4ヵ月を過ぎて、初期から失敗の連続であることを中国はつぶさに観察しているに違いない。

 その経過を見て、西側の識者の間では、中国の台湾併合戦略にどういう影響があるかという判断で見方が分かれている。

 すなわち、台湾を武力で侵攻するのは当分、先に延ばされるだろうという見方が強いが、それならそれで、何か代わりの手段を取るかどうかが問題となる。

 当コラムでも指摘したが、事実上の独裁者となった習近平が今秋の党大会で、慣例を破って国家主席3期目を勝ち取ることが確実視されている。
 そうなると70歳を迎える来年の3月から5年間、独裁の完成に向けて歴史的な業績を挙げて見せなければならない。

 今からの5年半で、台湾を軍事的に制圧する見込みが立たない場合、政治的に台湾を親中国に転換させ、香港のような状態に追いやることがありうるだろうか。

 それも到底不可能だとしたら、何が考えられるだろうか。

 ここで、日本の尖閣諸島を奪い取るという可能性が格段に高まるのである。

 尖閣諸島は日本の領土であり、米国は公式に何度も「日米安全保障条約の適用範囲」だと表明している。
 しかし、同条約第5条では、その範囲を「日本国の施政の下にある領域」に限定している。

 中国はそこに目を付けて、日本国の施政の下にないように見せる戦略をとっている。

 すなわち、準軍隊である中国海警局の公船を、絶えず尖閣諸島周辺の領海と接続水域に侵入させ、日本の実効支配が及んでいないように国内外に宣伝している。

 中国の公船は中国漁船を取り締まり、漁獲物や航海日誌を検査して実績を積み上げている。対照的に日本は、日本の漁船も調査船などの民間船舶も尖閣諸島に接近するのを禁止している。
 だから、日本側には漁船などの臨検実績がほとんどないということになる。

 これでは、今でも、仮に中国がなんらかの国際機関に日本を相手に提訴した場合、日本の方が不利になってしまう可能性があるということだ。

 この中国の戦略が一転放棄され、一気に尖閣諸島を実力で占領する可能性が出てきた。

 なぜならば、中国は92年領海法で、尖閣諸島を明確に台湾の付属諸島と明記しているからだ。
 つまり、尖閣諸島を徐々に日本から奪うのではなく、法律に定める中国領台湾の「一部を取り戻した」というすり替えが可能なのである。

 台湾のすべてを併合するのが不可能と悟った独裁者が、尖閣諸島制圧を実績の端緒だとして、党員と国民に誇示する事態が予想しうる。それも5年半以内に、ということである。

 日本も米国も、そうなってから慌ててもどうにもならない。

 3番目の韓国は、島根県竹島を不法占拠して久しい。幼稚園から「独島(韓国の呼称)はわが領土」という愛国歌を教え込み、すべての教科書とメディアが虚偽の歴史を教えて、すでに3世代を過ぎている。

 今では、あの島は日本に返還しなければならない日本の領土だ、と知っている韓国民は1パーセントもいないだろう。

 それなら、あの島を日本から奪った韓国初代の李承晩大統領は英雄でなければならないが、米軍がハワイから連れてきた李承晩のことは忘れてしまいたいのが韓国だ。

 それだけでなく、日本に対する戦勝国だという妄想を、終戦直後から尻上がりに強めてきている。

 もともと韓国がいつどのように生まれたのかは曖昧のままである。1948年7月に成立した大韓民国憲法は、朝鮮半島全域を対象としている点で現実無視の虚妄と言えるが、その憲法に基づいて李承晩大統領が議会で選出されている。

 左派色の強い前の文在寅大統領は、その曖昧さをさらなる反日のテコとして利用しようとした。
 すなわち日本に併合されていた時代に、中国に朝鮮の亡命政権が存在し、その政権が連合国と協力して日本を降伏させた、という独自の虚偽を国民に刷り込もうとしていた。

 だから戦勝国であり、韓国は北朝鮮よりも正統の後継国だ、と韓国民に信じさせたかったのであろう。

 こういうように全くの虚偽を広めて、歴史を都合よく作っていく国民性は恐るべきもので、次のターゲットは長崎県の対馬に向けられている。

 コロナ禍の前、インバウンドの観光客が日本になだれ込んでいた時代、韓国の観光客がいちばん手近の対馬にも殺到していた。

 なにしろ、人口3万人ちょっとの対馬市に、年間40万を超す韓国人客が押し寄せていた。また韓国資本の進出も急で、旅館や土産物店、飲食店などが次々と買収されていった。

 問題なのは、韓国人の誰かが「対馬は日本より韓国に近いのだから韓国領土だったに違いない」と言いだし、それが広まっていった事実だ。

 日本の本土ではほとんど知られていないが、対馬を望む対岸の地方議会が2度、韓国政府に対馬を取り返すよう決議までしている。

 韓国からやってくるツアー添乗員が、堂々と「この対馬はもともと朝鮮領土だったんですよ」と、説明している様子がテレビでも報道された。

 対馬の寺から仏像が盗まれ、韓国で発見されて犯人も有罪となったが、仏像は返されないという事件がいまだに係争中だ。
 この事件は根底に、対馬は日本が朝鮮から奪ったものだ、という虚偽の流布があるのだと考えられる。

 泥棒は対馬から盗むのは悪いことではないと考え、司法関係者も一般国民も、対馬は倭寇が朝鮮の領土を奪ったものだと信じ始めているから、盗品の仏像をすんなり返すべきだという常識を忘れてしまう。

 恐ろしいのは、コロナ禍のピークが過ぎて、観光客の受け入れが徐々に再開されていくその先の対馬である。

 日本政府と長崎県がよほど周到に準備し、広範な対策を整えて観光客を受け入れるとしても、問題が多発することは容易に想像できるだろう。

 コロナ以前の韓国人客40万人がさらに膨れ上がり、その大部分が日本に奪われた領土だと信じ込んでなだれ込んでくるとしたら、どんな対策を立てていても到底太刀打ちできないだろう。

 個人や団体による計画的な反日活動も予想される。韓国資本による自衛隊基地周辺の土地買収も、すでに問題視されている。

 今の韓国にとって、倭寇や秀吉の朝鮮出兵だけでなく、日本の歴史すべてが現代に至るまで、朝鮮民族に対する悪の権化だと認識されている。

 何かピンときただろうか? そう、プーチンの誇大妄想、被害妄想、歴史の捏造曲解と全く同じと言っていいほど共通しているのである。

 前々大統領の朴クネは、「千年の恨み」と言い放ち、その前任の李明博は大統領として初めて竹島に上陸して見せた。この2代が両者とも、「保守系」だったことを忘れてはならない。
 
 日本を見る目に保守・革新の区別はないと知るべきである。
(おおいそ・まさよし 2022/06/28)


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