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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.280
   by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

令和4年7月30日

    ロシアなど周辺3ヵ国が日本領土狙う(続々)

 参議院選挙の応援演説中に非業の死を遂げた安倍晋三・元首相は、世界の標準からすれば国葬が当然である。
 アメリカでは法律で、現職・元職はもとより、次期大統領が確実な当選者まで国葬になる。業績は関係ない。

 しかし、たまたまだが、当コラムで2ヵ月連続して日本領土を狙う周辺国を詳述してきたので、このいちばん優先度が高い領土領海を守るという一点において、安倍総理は全く貢献してこなかった事実を指摘しておかなければならない。

 それどころか、今年2月に始まったロシアによるウクライナ侵略によって、プーチン大統領の領土拡大意志が明らかになり、それなら安倍総理(当時)が27回もプーチンと首脳会談を重ね、山口県の地元にまで招待して歓待したのは、一体何だったのかと誰しも疑問に思ったに違いない。

 安倍ご本人は、2018年11月にプーチンと「シンガポール合意」にこぎつけ、56年の「日ソ共同宣言」を基礎として平和条約交渉を加速させるとしたことを、誇るべき実績だと思っていたらしい。
 岸田現首相に、この合意を受け継ぐように促していたという話もある。

 しかし国内でも、この合意は日本政府が4島一括返還を断念し、2島返還に譲歩したものだという批判も強かった。

 その上、交渉を担当するラブロフ外相が、直後に「まずロシアの主権を認めるのが前提だ」とか、「日ソ共同宣言では、平和条約締結後に歯舞群島と国後島を日本に引き渡す、となっているが、主権を渡すとは書いてない」と言い放ち、公然と「ちゃぶ台がえし」をやってみせた。

 つまり、この時点で、プーチンは「いい警官」、ラブロフは「悪い警官」を演じていたわけである。

 2月のウクライナ侵略以来、プーチンも「悪い警官」、ラブロフは「もっと悪い警官」であることを世界に誇示している。

 安倍元首相は、この醜悪な侵略戦争について、ひと言も発言しないまま、あの世に旅立ったことになる。

 つぎに、中国が沖縄県の尖閣諸島を自国領だと宣言し、日本の実効支配を徐々に失わせる「サラミ侵略」を積み重ねているのに対し、効果的な対策を全く打てない、あるいは打たないままでいた。

 それなのに、独裁者となりつつある習近平・国家主席を国賓として招待までしていた。これは実現していないが、プーチンに対する厚遇を優先したことと通底する発想だ。
 安倍外交が日本を狙う周辺国には全く通用しないことを、認識していなかったのではないかと疑われる。

 この対中領域防衛策として、当コラムでは2012年12月、20年7月に続いて21年3月にも繰り返している提案がある。

(以下に部分再掲)
 国会でもようやく3月17日、参院予算委員会で自民党の北村経夫議員が質問したのに答え、外務省の有馬裕・北米局参事官が「尖閣諸島の久場島と大正島の2島を今後も米軍に提供し続けることが必要だ」と明言した。

 詳しく言うと、この2島は米軍占領下の1948年に米軍爆弾投下演習区域に指定され、72年5月の沖縄返還後も日米地位協定によって、現在に至るまで「射爆撃演習場」として米軍に貸与されている。

 78年以後は主として米軍機の更新に伴って実際の使用が停止しているが、これを再開してもらうことで、日本の施政権が及んでいることを証明できるのである。

 現在の世論の動向では、島の自然を破壊する爆撃演習は好ましくないが、爆発しない模擬爆弾を投下するほうが、実は戦術的安保構想に合っている。

 というのは、模擬爆弾を投下して、それを回収するという名目で、米軍艦艇が接岸し、米兵が上陸するという自然な使い方ができるのである。

 極端に言えば、毎日1個か2個の模擬爆弾を投下し、それを毎日のように回収に行けば、中国の「海警」(2月から第2海軍となった)は手も足も出せない上、日本の施政権に従った行動だと世界に知らしめることができる。(2021/03/30コラム)

 以上のような対策が議論されているのに、安倍、菅政権は、自国民に尖閣への接近、上陸を禁止するというだけの消極策に終始してきたのである。

 3つめの韓国の竹島占拠に対しても同じだった。「悪夢の」と枕詞のつく民主党政権では、「不法占拠」という従来の用語すら使わないようにした。

 安倍政権になっても、韓国に対しては「日本固有の領土」だと主張するだけで、その根拠を、その都度、世界に強く訴えるという行動をとっていない。

 先月のコラムで、韓国が国民に全くの虚偽を刷り込む「マインドコントロール」を繰り返している事実を指摘した。 
 それなら、その対策は、そのマインドコントロールを打ち消すような強い発信を繰り返すしかない。外務省のホームページに記載するだけではダメなのである。

 日本政府の抗議は「遺憾である」としか言わないので、「遺憾砲」だと揶揄されているのが現状だ。

 初代の李承晩大統領が、国際法違反の「李ライン」という漁場囲い込みで日本漁船を排除し、日本の巡視船を銃撃し、結果として竹島は韓国の固有の領土だと国民に刷り込んだという事実を、毎日のようにあらゆるメディアを駆使して海外に広報することが必要だ。

  歴史戦、情報戦という認識が、日本政府にはあまりにもなさ過ぎる。8年8ヵ月の長期政権になった安倍首相も、結局は、その「負けいくさ」に呑まれてしまったという結論になるようだ。

 岸田首相は、この希有な転換期をどう生かすことができるだろうか。
(おおいそ・まさよし 2022/07/30)


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