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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.282
   by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

令和4年9月28日

      プーチン理論では当然の核使用か(!)

 これほど旧ソ連のやり口と同じことを繰り返すのか、と驚きを禁じ得ない。

 プーチン「大帝」が9月21日に突然、予備役兵士の部分的動員を発表し、さらに事実上占領しているウクライナ東部・南部の4州で、ロシアへの編入に賛成かどうかの住民投票を実施すると宣言した。

 予備役動員は軍務経験者30万と言われるが、実際にはかなりいい加減に招集されているようだ。
 それだけでなく、ウクライナ領内の占領地区で、ウクライナ人男性を強制的に招集していると報道されている。

 日本のメディアはそんな非人道的なことがありうるのかと驚愕しているが、何のことはない、旧ソ連では全く同じことをやっているのである。

 ソ連はバルト三国を併合(1940)したあと、反ロシア派とみなす住民を片っ端からシベリア送りにした。

 そして、後にドイツ軍が三国を占領した後、ドイツ軍と戦う最前線にこれらのバルト住民を武装させて送り込み、ドイツ側に招集されたバルト住民と対戦させたのである。

 プーチンがいかに「ソ連体質」であるかがよく分かる。

 ウクライナの東部南部4州をロシアに編入するという暴挙も、バルト三国など旧ソ連内の共和国を吸収併合する際に、住民の総意だと見せかけた古い手段の再現にすぎない。

 すなわち、まず武力を送り込んで住民を押さえ込み、住民の中からソ連編入の要望・嘆願を受けたので歓迎する、という形を作った。
 当時は住民投票という民主的習慣はなかったので、強制的に作らせた「御用議会」で決議させるという形を多用した。

 プーチンは9月末にも「住民の要望を受け入れる」として、4州のロシア編入を宣言するとみられる。

 世界にとって最も恐ろしいことは、その瞬間から始まる。

 プーチンがなぜ4州のロシア編入を急いだのかを考えてみれば、ロシア領をウクライナが攻撃したら全力で叩き返すぞ、と何度も警告しているのが答だとすぐ分かる。

 ウクライナは、自国領から侵略者のロシア軍を押し返そうと7ヵ月も奮闘してきたわけだが、そこがロシア領だと言われると攻撃すべきかどうか、根本的な問題を抱えることになる。

 しかし、ここで停戦し、4州を取られたままで泣き寝入りすることは絶対にできない状況だ。

 プーチンは、そこまで読んでいるだろう。ウクライナが4州に砲弾を1発でも撃ち込んできたら、予告通り、核兵器を使って「反撃」する計画だろう。

 核の目標はどこかを考えてみると、理論的にだが、首都キーウ(キエフ)の政治の中心部、すなわち大統領府や議会、官庁街だけを限定的に一掃してしまおうとするのではないだろうか。
 
 そんなバカなと思われるかもしれないが、思い出してほしい。プーチンは前々から「ウクライナは国ですらない」と言い放ってきた。
 ウクライナはロシアの一部でしかないので、独自の政府などあってはならないというのが持論なのである。

 したがって、威力のごく小さい核ミサイルで、政府機構を無にしてしまうという答を、初めから用意していたのではないか。

 これも思い出してほしい。ロシア側は当初、侵攻して3日かそこらでウクライナは降伏し、ゼレンスキー政権は外国に亡命してお終いになると踏んでいた。

 それが元々の狙いだったのである。

 アメリカのバイデン政権は、いま本気でロシアに圧力をかけ、「核を使ったら破滅的な結果を呼ぶぞ」と警告している。が、実際にできることは何もない。

 核でゼレンスキー政権が消滅したとしても、米国がロシアに対して同じ規模の核報復をするとは考えられない。

 それどころか、プーチンは、「広島、長崎で民間人を何十万人も殺したのはアメリカだったことを忘れたのか」と逆ねじを食わせるに違いない。

 バイデン大統領は、そう言われることをいちばん恐れているだろう。

 日本の世論も、微妙な反応を見せるに違いない。

 プーチンが、そこまで読み筋通りだとしたら、この暴君を止める手立ては米欧にはない。ロシアの中で、何らかの政治的動きが出てくるのを期待するしかないだろう。
(おおいそ・まさよし 2022/09/28)


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