国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.284 by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表) 令和4年11月29日 ウクライナの前に日本攻撃計画あった! 11月25日、衝撃的なニュースを「Newsweek日本版」が、電子版で世界に流した。 まさかとは思うが、メディアが信頼できる「ニューズウィーク」で、署名入りの記事なのでフェイクとは思われない。 内容は、ロシア連邦保安庁(FSB=旧KGBの系譜を継ぐ諜報機関)の内部告発者が発信したメールで、昨年2021年夏に「日本を相手にした局地的な軍事紛争に向けて、かなり真剣に準備をしていた」と書かれているというのだ。 メール自体はロシアのウクライナ侵攻直後の今年3月17日付けとなっていて、ロシアが攻撃相手をウクライナに変えた理由は分からないとしている。 日本のメディアの反応は鈍いと言わざるを得ない。なぜならば、このスクープによって、いままで謎だった部分がかなり明らかになるからである。 たとえば5月コラムで、ロシア議会下院の副議長が「ロシアは北海道の主権を有するという専門家もいる」と発言(4月1日)したことを紹介したが、この発言の意味は不明だとした。 これが、つい半年前まで、極秘の内に対日軍事行動を計画していたならば、十分平仄(ひょうそく)が合うことになる。 また、プーチン大統領が2018年12月に、事実上、古くからカムチャツカ半島に住むアイヌ民族を、ロシア人の一部だと認定したことも紹介しているが、これもアイヌの権利を保護するという大義名分で、日本に領土割譲を要求する布石だった可能性が出てきた。 問題のメールは、具体的に「ロシアがプロパガンダ・マシンを作動させ、日本に『ナチス』『ファシスト』というレッテルを貼る作戦を強く推し進めていた」と記しているという。 これは、ウクライナに対してロシアが適用した言いがかりと全く同じであることに、誰でも気づくだろう。 日本人がナチ化するとか、ユダヤ系のゼレンスキー大統領がネオナチだとか、世界の誰が信じるかと呆れるしかないが、残念ながらロシア人というのは例外なのである。 実際、ロシアのウクライナ侵攻で殺された市民たちの多くは、ロシア兵士に「ネオナチはどこにいる?」と聞かれ、「そんな者はいない」と答えると、「じゃあ、おまえがネオナチだ!」として射殺されたと伝えられている。 ロシア兵士の知能レベルは、そんな程度なのだと知らねばならない。 FSB内部告発者のメールによれば、日本人を陥れる工作は2021年8月から始まり、まず「第2次大戦中に日本の特殊部隊がソビエト連邦の国民に拷問を与えたとする文書や写真などの機密を解除した」という。 その誘導に基づいてロシアのメディアは一斉に、日本が細菌兵器開発のためにソ連軍の捕虜を使って残酷な実験を行ったり、非人道的な扱いをしたと報道し始めた。 これはもちろん、現在の日本が「残忍な生物化学の実験を行い、残酷で、ナチズムへと向かう性向がある」と、ロシア国民に信じ込ませる布石であろう。 思い出してほしい。プーチンがウクライナを貶めるための宣伝の1つに、「アメリカの生物化学兵器研究所が3ヵ所ある」と宣伝したことを、、。 ここまで日本はウクライナと同列に、ロシアの攻撃対象として扱われていたのかと、背筋が寒くなるだろう。 ここで我に返って、軍事戦略として何が計画されていたのだろうかと考えると、プーチンは日本に軍事的圧力をかけることによって、米国の関心をウクライナから逸らそうと考えたのではないか、と思い当たる。 プーチンはKGB出身で軍事専門家ではないが、いかに何でも広大なロシアの東と西の両端で、戦争を始めるのは得策ではないと分かるはずだ。 おそらく本当の狙いはウクライナへの電撃侵攻であって、その成功のためにはアメリカの関心を日本に集中させる必要がある、と考えたのではないか。 もしそうだとすると、電撃侵攻でウクライナ併合をもくろんで失敗したプーチン大帝がどういう手に出るか、そこが次の問題である。 もしかしたら、ウクライナほど手強くない日本を相手に、ロシア帝国を拡大して大帝の権威を挽回しようとするかもしれない。布石はすでに打ってあると思い込んでいるかもしれないのである。 ここで、もうひとつの謎の解明に近づけたかどうか、検討してみたい。 それは、プーチンと27回も首脳会談を重ね、「シンゾウ」「ウラジーミル」と呼び合う仲になっていた安倍元首相が、ウクライナ侵略以後、まったく何も言及しないまま過去の人となった事実である。 安倍支持者の中にはいまでも、「安倍さんが直ちにモスクワに飛び、プーチンに停戦を説得していたら、真の世界的指導者として国葬にも華を添えていただろう」というような賛美が聞かれる。 しかし、実際のところ、安倍元首相は「プーチンに完全に騙されていた」と悟ったか、あるいは自分の首相退任の後、日本に軍事的攻撃を計画するまでにプーチンが変質したことを察知していたか、この2つのどちらかだったのではないかと推察されるのである。 そのどちらにしても、元首相は自分が何を言っても、いわんやモスクワに飛んだとしても、何もなし得ないことをよく分かっていたに違いない。 それにしても、この期に及んでなお、「ゼレンスキーがウクライナの人々を苦しめている」(森喜朗元首相)、「原因を作ったウクライナも悪い」(鈴木宗男参院議員)、「ゼレンスキーが親ロ派住民を虐殺してきた」(鳩山由紀夫元首相)と主張する日本の親ロ派政治家たちは、ニューズウィーク日本版のスクープにどう反応するだろうか。 (おおいそ・まさよし 2022/11/29) |