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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.290
   by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

令和5年5月28日

    日本もウクライナ戦闘機に寄与できるが、、

 広島サミットという舞台で、正式ではないが、欧州各国が米国製F-16戦闘機をウクライナに提供することを、バイデン米大統領が認めたといわれる。

 米国製の兵器を購入国が輸出する場合には、製造元の米国の政府が承認する必要がある。バイデンは米国からの直接の戦闘機供与はしないが、欧州各国が独自にウクライナに供与するのは拒否しないと一歩踏み込んだ形だ。

 そこで、なぜ早くからゼレンスキー大統領がF-16戦闘機を供与するよう、何度も重ねて要請してきたのかという問題を考えてみよう。

 まず、この戦闘機は旧式で、決定的に何か優れた性能を持っているわけではない。米軍が45年も前に運用を始めた、いわゆる「第4世代」の戦闘機で、ステルス性はほとんどない。

 米軍は主力戦闘機のF-15と組み合わせて運用する軽量小型戦闘機として開発した。F-15は大型高性能機で、エンジンは2基。
 F-16は同等のエンジンを1基搭載し、地上の戦車や弾薬庫などを爆弾やミサイルで破壊する対地攻撃性能を重視している。

 日本では前者を「制空戦闘機」、後者を「支援戦闘機」と独自の呼び方をする場合がある。

 米国は虎の子のF-15を日本やサウジアラビアなどの重要な同盟国にしか取得させず、その他の西側各国にはF-16を取得するよう説得し続けた。「安い方で我慢しなさい」ということだ。

 皮肉なことに、その方針がうまくはまって、F-16は歴史的なベストセラーとなり、現在までに4,600機も生産されている。

 しかし、もう戦闘機の世界はステルス性を重視する「第5世代」の時代に入っているので、老朽化したF-16を早く処分して新型に更新したい、と思う国がどんどん増えているのである。
 したがって、ウクライナは米国がウンと言いさえすれば、F-16戦闘機を比較的早期に、必要十分な数だけ入手できると計算したのだろう。

 もうポーランドでウクライナ空軍パイロットの訓練が始まっていると報道されているが、熟練パイロットでも「機種変更」に半年は必要だろうと思われる。
 積載するミサイルなどの兵器に習熟するにはもっと時間がかかるだろう。

 ウクライナ政府は約200機の取得をもくろんでいるようだが、実際にそれだけの機数と搭載兵器を確保し、堅固な格納庫と整備工場、整備要員と部品供給の体制を整えるのに何年かかるだろうか。

 それを考えると、このF-16戦闘機供与に西側が踏み切ったということは、この戦争が長期化する可能性が大きいという判断に至ったことを意味する。

 そこで、日本としても、殺傷武器は輸出できないという政治的制約をいつまで守り続けるか、という問題に直面せざるを得ないだろう。

 まだ気がついている人は少ないが、こういう案が考えられよう。

 日本は保有するF-15主力戦闘機の約半数、99機を「第5世代」のF-35に更新する計画を進めており、すでに初期生産型のF-15の退役(解体)が始まっている。
 機体はスクラップにされても、エンジンはそのまま死蔵されるしかないので、10年間で約200基のエンジンが滞留していくことになる。

 ここが、キモ、である。このエンジンはF-16にも使えるので、工夫すればウクライナに提供することが可能になるのではないか。

 具体的には、日本は米国以外にはこのエンジンを譲渡できないので、まず米国に実質無償で売り戻し、米国政府が整備して新品同様に改修し(これも無償)、第三国経由でウクライナに引き渡す。
 この方式なら、日米両国の国内的制約をかいくぐることができるはずだ。

 このエンジンの新品価格は1基約10億円なので、中古であっても、日本はウクライナに数十億円から数百億円に相当する重要な援助を行えるわけである。

 こうしてロシアによるウクライナ侵略は、ロシアが明確に失敗を認めて撤退しない限り、ウクライナが事実上の西側(NATO)の一員となり、限りなくロシアを消耗させていくことになる。

 日本外交の幅を拡げる好機でもあると認識するべきだろう。
(おおいそ・まさよし 2023/05/28) 


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