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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.297
   by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

令和5年12月28日

      日本はトランプ歓迎か、意外な理由

 2022年はロシアのウクライナ侵略開始、今年2023年は第5次中東戦争というべきハマス対イスラエルの殺し合い、と驚愕の事件が相次いだ。

 2024年の世界の驚愕は、あるとすれば「トランプ、再選に成功」がトップに来ることは請け合いだろう。

 世界各国の指導者たちは、トランプ大統領の復権が何をもたらすか、考えると夜も眠れないほど不安になるだろうと思われる。

 予想できるのは、バイデン大統領の4年間をすべてひっくり返すことに専念するだろうということと、「アメリカファースト」を徹底的に追求するに違いないということの2つである。

 日本では、一部の識者たちが、バイデンよりトランプの方が歓迎できると考えている。
 たとえばトランプが11月5日に当選したとして、2025年1月の就任以降の話になるが、日本を公式訪問する際に、靖国神社に参拝する可能性が出てくると予想している。

 なぜそんなことが予想できるのかというと、バイデンとの関係から謎解きができるのである。
 バイデンはオバマ政権の副大統領だったが、ちょうど10年前、安倍晋三首相が2期目の始めの2013年12月26日に靖国神社を参拝したとき、「失望した」という声明を在日米大使館から発表させ、日本政府に衝撃を与えた過去がある。

 中国や韓国の反発は当然予想されたが、米国政府がそういうネガティブな反応を明らかにするとは思ってもいなかったからだ。

 この謎解きは、バイデンが直前に韓国を訪問した際に、「安倍は靖国神社に行かないと思う」と、勝手に保証したからだった。
 つまり、そのことを安倍本人にも電話で知らせ、「俺の顔を潰すなよ」と露骨に圧力を掛けていたのである。
 そのメンツを安倍首相に潰されたので激怒したというのが真相だ。

 そういういきさつをトランプは聞かされているだろうから、バイデンを何が何でも否定したいトランプが、大統領として公式に、靖国神社を肯定してみせるだろうという予想が生まれるわけである。

 バイデンは民主党の中道で上院外交委員長を長く務めた長老だが、決して日本に好意的とは言えない過去がある。オバマ大統領も、その前の民主党クリントン大統領も、その点では同じだ。

 靖国よりもっと深刻な問題である日本の憲法に関しても、2016年8月15日(微妙な日)、バイデンはとんでもない発言をしている。
 「日本が核武装できないように憲法はわれわれ(米国)が書いた」と演説したのである。

 これは、客観的に翻訳すれば、「その憲法を日本は忠実に守っているから米国の属国だ。核は持たせない」という意味にほかならない。

 この演説はヒラリー・クリントン候補の応援のため、トランプ候補を「政治シロウトだから無知だ」とあけすけに攻撃しているので、当然、トランプは忘れるはずがない。

 このバイデン発言をトランプが全否定するとすれば、「だから日本の憲法は、初めから無効だ」という言い方しかない。

 当コラムでは以前から、「国際法違反であり、また旧憲法の改正と偽っているので、2重に無効」だと論理的に指摘している。
 反響はほとんどないが、米国大統領がもしそう言明した場合、日本に与える影響は想像がつかないほど破壊的だろう。

 しかし考えてみれば、それほど強力な「ガイアツ」がなかったので、靖国問題や憲法問題が何十年も、1歩も前進しなかったのだと気がつく。日本は外圧がないと動かない国であることは事実だ。

 トランプが大統領として復権すれば、間違いなく強権的大統領となり、習近平、プーチンと並ぶ3大独裁者と呼ばれることになるだろう。
 本人も、「就任初日だけ独裁者になる」と認めている。その日に、不法移民1千万以上を国外に追放し、経済再建のために天然ガス・石油の増産を命じる、という意味だそうだが、1日だけで独裁者をやめるはずはない。

 安倍首相はトランプ大統領といちばんうまくつきあった首脳だったが、年齢的にも経歴からもはるかに制御しにくくなると思われる再任トランプを、上手に動かせる首脳が世界のどこにいるだろうか。

 日本にとっては、「よいガイアツ」をかけてくるトランプは歓迎するが、日本と韓国に「核で自衛」を迫ってきたらどうするか。頭の痛い問題になる。
(おおいそ・まさよし 2023/12/28)


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