国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.301 by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表) 令和6年4月29日 軍需拡大の時代に、日本は例外 今月24日、ようやく米国のウクライナ向け緊急支援予算案が、バイデン大統領の署名を得て成立した。トランプ前大統領の息がかかった下院共和党が、昨年から妨害を続けてきた案件である。 約608億ドル(約9兆4千億円)の支援金額は、同じころ発表されたストックホルム国際平和研究所(SIPRI)による世界の軍事費支出報告で、昨年のウクライナの軍事費648億ドルに迫るほどの巨額だ。 とは言っても、この予算額がウクライナ政府に渡されるわけではなく、ほとんどすべてが米国の軍需産業に支払われ、米国自体を潤すことになるのである。 ロシアによるウクライナ侵略は、西側諸国がウクライナの抵抗を支援して2年以上になるが、誰もが予想し得なかった消耗戦に突入している。 ウクライナの最大の支援国はアメリカだが、すでに米軍の装備資源を大幅に提供してしまい、そのあとを埋めるのに苦慮している状態だ。 NATO標準の155ミリ榴弾砲の砲弾は、現在の年産100万発体制を、早急に3倍にする計画だという。 ウクライナが切望する対空ミサイル「パトリオット」は、在庫を渡す余裕がなく、ライセンス提供先の日本から逆輸入する運びとなった。 日本はアメリカに売り戻すだけで、米軍は手持ちの在庫からウクライナに提供するという「玉突き」(迂回)方法で、日本国内の武器輸出反対の世論に対処するというわけだ。 台湾向けの兵器供給も滞っており、米英豪3国の「オーカス」でオーストラリアに提供する原子力潜水艦と、米海軍自体の原潜増強計画がバッティングしてしまうという建造能力の問題も出てきた。 ではロシアはというと、こちらも旧ソ連時代の戦車を倉庫から引っ張り出してきて修理し、優先して最前線に送っているとか、死蔵していた古い砲弾を検査しながら戦場に出していると言われる。 それでも砲弾が不足してきたので、北朝鮮から300万とか400万発と言われるほどの在庫砲弾を輸入し、見返りに食料や肥料を送ったという情報もある。 北朝鮮はその後も工場フル稼働で、砲弾や短距離ミサイルなどを生産しているようだ。 そうした軍需産業の世界的特需を尻目に、日本は、買い手が自衛隊に限られているので、関連企業はそれに見合った生産体制しか保有していない。 それどころか、自衛隊は装備の部品も弾薬も常に不足しており、いわゆる「継戦能力」に乏しいことは知る人ぞ知る事実だ。 岸田文雄首相の「国賓級」訪米で、日本はアメリカにとって最も頼りになる同盟国だと相手も認めたようだ。 それはいいが、上のSIPRI年次報告によると、日本の軍事費は昨年502億ドルで世界の第10位に過ぎない。韓国がすぐあとに付けている。 米国政府は、日米(ペア)、日米韓(トリオ)、日米豪印(クアッド=4)、に加えて、米英豪の「オーカス」に、日本、カナダ、ニュージーランドを引き込んだ「シックステッド=6」を目論んでいるようだ。 これは複合的に、単一ではないが事実上の、「太平洋版NATO」の構想と見られるかもしれない。 世界がその方向にあるとすれば、日本には全く異次元の覚悟が必要になるということである。これは「流れ」なので、バイデンかトランプかで変わることはない。 (おおいそ・まさよし 2024/04/29) |