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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.302
   by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

令和6年5月30日

      中国の悪意を撥ね返す妙手を再提案

 5月27日に、4年半ぶりという日中韓3ヵ国首脳会談が、韓国のソウルで開催された。その前後に、それぞれ2ヵ国同士の会談も開かれた。

 まず疑問なのは、中国は習近平主席が首相の権限も権威も奪ってしまい、制度上はナンバー2で、政府(国務院)と経済政策を統括するはずの首相が、皇帝の家来に成り下がってしまった事実である。

 つまり、中国の李強首相には何の権限もないのに、日韓の首脳と対等の会談に招かれたわけで(主催は韓国)、実質的な内容が決められるはずもなかったのである。

 岸田首相は、李強首相に対し、尖閣侵犯や理由のない邦人の拘束、日本産水産物の輸入禁止など、強化される中国の対日強硬政策に抗議したが、すべて聞き流されただけだった。

 しかも中国は、首脳会談直前の20日、駐日大使の呉江浩が親中派日本人の客を大使館に招き、日本が台湾問題で中国の分裂に加担すれば、「日本の民衆が火の中に連れ込まれることになる」と脅し文句を述べている。

 これが、いわゆる「戦狼外交」というもので、中国外務省の報道官を筆頭に、世界中に派遣されている外交官が、堂々と駐在する国に対して脅し文句を繰り返すのが常態化している。

 それだけでなく、その前の4月27日、沖縄県石垣市が公式に派遣した尖閣諸島への調査船を、中国海警船が執拗に追尾し、「中国の領海から退去せよ」と要求し続けた。
 
 日本の巡視船十数隻が懸命に護衛して近寄らせないように奮闘し、日本政府が上陸を禁止しているので、調査団はドローンを飛ばして上空から撮影するにとどまったという。

 この日を含め、中国の海警船は尖閣の領海と接続水域に連続158日以上、進入を続けており、これまでの最長記録を更新し続けている。

 つまり、徐々に「実効支配」を国際的に認めさせ、日本に尖閣諸島を諦めさせようとするプロセスが進行しているわけである。

 日本政府はなぜ「遺憾だ」と繰り返すのみで、効果的な対策があるのに実施しようとしないのか、あるいは単なる怠慢なのか、疑問も繰り返されるのみだ。

 そこで、当コラムが過去に提案した、これしかないと思われる具体策を再掲してお目にかけることにしたい。

(以下は、2021年3月コラムから部分掲載)

<次ぎに戦術的レベルの安保構想だが、これはかねてから当コラムで提案しているように、米軍に尖閣諸島を積極的に使用してもらうことで、日本の実効支配を世界に誇示する案だ。

 国会でもようやく3月17日、参院予算委員会で自民党の北村経夫議員が質問したのに答え、外務省の有馬裕・北米局参事官が「尖閣諸島の久場島と大正島の2島を今後も米軍に提供し続けることが必要だ」と明言した。

 詳しく言うと、この2島は米軍占領下の1948年に米軍爆弾投下演習区域に指定され、72年5月の沖縄返還後も日米地位協定によって、現在に至るまで「射爆撃演習場」として米軍に貸与されている。

 78年以後は主として米軍機の更新に伴って実際の使用が停止しているが、これを再開してもらうことで、日本の施政権が及んでいることを証明できるのである。

 現在の世論の動向では、島の自然を破壊する爆撃演習は好ましくないが、爆発しない模擬爆弾を投下するほうが、実は戦術的安保構想に合っている。

 というのは、模擬爆弾を投下して、それを回収するという名目で、米軍艦艇が接岸し、米兵が上陸するという自然な使い方ができるのである。

 極端に言えば、毎日1個か2個の模擬爆弾を投下し、それを毎日のように回収に行けば、中国の「海警」(2月から第2海軍となった)は手も足も出せない上、日本の施政権に従った行動だと世界に知らしめることができる。

 米政府は、尖閣諸島が「日本の施政権下にあるから日米安保の適用範囲だ」という原理原則を崩していない。だから、中国はその前提を曖昧にし、なし崩しに「中国の施政権下にある」と世界に認知させようとしているのである。

 この狡知を無にさせるには、米国に当たり前の協力を求めるのが最も早道である。米国にとっては何のリスクもない演習の実施だから、日本の要請を断る理由はないだろう。>
(以上、再掲終わり)

 中国の呉駐日大使は、「台湾有事は日本有事」という安倍晋三首相(当時)の名言を完全否定するが、中国は尖閣諸島を台湾の一部だと国内法で規定しているので、尖閣奪取は「日本有事」に決まっているのである。
(おおいそ・まさよし 2024/05/30)


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