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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.304
   by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

令和6年7月31日

     ゴッドを味方に付けて「ほぼ確トラ」に

 今月は、またまた誰も予想しなかった事件が相次いだ。6月27日の「バイデンvs.トランプ」両候補の論戦対決が、予想を上回るバイデンの老衰ぶり露呈で、「もしトラ」が「ほぼトラ」になったと評された。

 それが、7月13日、ペンシルベニア州バトラーにおける共和党支持者の集会で、トランプ候補が狙撃を受けたことで、情勢は「ほぼ」から「確トラ」にまで急変した。

 そのため、バイデン大統領は再選を目指すべきでないという民主党内の声が、急激に強くなってきた。これはよく分かることで、選挙を前にした現職議員たちは、不人気のバイデンに引きずられる形で、自分の選挙が不利に傾くことを恐れるからである。

 バイデンは表向き強気を貫く構えだったが、突然21日、候補を辞退すると発表し、後継候補にカマラ・ハリス副大統領を指名した。

 ハリスは、父親が中米系の黒人、母親はインド人留学生という複雑な出生で、サンフランシスコで地方検事、カリフォルニア州の司法長官を経て同州から連邦上院議員に当選したが、政治経験は圧倒的に乏しかった。
 私生活ではユダヤ系の裕福な弁護士と結婚し、夫の連れ子2人の母親である。

 バイデンは、自分と大きく異なる人物を副大統領候補にすることで支持者を増やす、という定石を打ったに過ぎないと言えよう。

 ハリス自身も過去4年近く、副大統領として目立った活躍も実績もないので、突然、大統領候補にしていいのかという反応も当初は強かった。

 ところが、これも予想に反して、急にハリス支持者が増え出し、一般の世論調査ではトランプとほぼ同等か、彼を上回る数字さえ出現しているのが現下の情勢である。

 これはどういうことかというと、民主党支持者の多くが「白人の強者」イメージのトランプとは正反対の、少数派(マイノリティー)の代表と見られるハリスに共感を覚えるのだろうと思われる。

 しかし、ここで、米国のメディアも日本のメディアもほとんど触れない重要な要因を挙げておかねばならない。

 それは、1神教の「神God」が、アメリカという国の根底に位置しているという事実である。

 一神教とは、「ユダヤ教・キリスト教・イスラム教」に共通する「唯一神」が、この世を創造し、やがてすべてを終わらせるとき(終末)、生きている者も死せる者もすべてを審査し、天国に行ける者を選ぶ、と信じることを意味する。

 米国は移民の国だが、欧州からの古い移民も、最近の中南米系(ヒスパニック)もアラブ系も、ほとんどすべてがこの「1神教3兄弟」の強固な信者なのである。

 それだけでなく、アメリカを動かす頭脳の部分、すなわち政界、財界、メディア、法曹、学会・教育界、芸術・芸能界などを牛耳るのはユダヤ系(ユダヤ教徒)が多く、そのため、バイデンもトランプもイスラエルのガザ戦争を強く非難しないでいる。

 かつて1998年、クリントン大統領が、ホワイトハウス内で、学生インターンの女性と性的関係を繰り返していたという事件で、連邦議会による弾劾罷免の危機に面した。
 下院の多数決で弾劾発議され、陪審団に当たる上院の3分の2が同意すれば有罪となって罷免される。

 その前にクリントンは、「妻に謝罪し許してもらった。家族も許してくれた。神Godに祈り許してもらった」と声明した。

 これは、言外に、「神が許したのに君たちは許さないと言えるのか?」とすごんでいるのである。

 この脅しが功を奏して、上院では3分の2に達せず、罷免を免れた。罪状は、「偽証罪」と「司法妨害罪」の2つだった。

 この「神」の悪用と違って、今月のトランプ暗殺未遂は、本人も米国民のほとんども、「ゴッドが守ってくれた」と受け取っているだろうと推察されるのである。
 
 おそらくこの感覚は、この3宗教の信者でなくても、間一髪で九死に1生を得たような場合には、誰でも同じような心理になるのではないだろうか。

 だから、トランプは何も言わなくても(言っているが)、「神が私に生きて仕事をするようにと命じたのだから、国民は私を落選させてはいけないよ」と、11月5日の投票日までマインドコントロールできる状態になっていると考えられるのである。

 とは言っても、選挙は水モノと言われているし、これからまた予期しない事件が勃発する可能性も否定できない。

 不思議なことに、2つの類似がもう流布しかけている。それは、トランプが選んだ副大統領候補のヴァンス上院議員(39歳、オハイオ州)が、2年前の中間選挙で当選したばかりの新人。その前は投資家だったので、政治家歴1年半、外交経験ゼロという事実だ。

 これは、民主党の大統領候補になったハリスの4年前とそっくり同じ、つまり「政治シロウト」ということで、一体トランプは何を考えているのか。
 おそらく自分の当選は間違いないと確信し、自分のクローンのような若手を4年後の後継者に選んだ、と見るのが妥当なところだろう。

 さらにもうひとつ、オバマが大統領候補になったとき、母親のオランダ系(白人)が息子をハワイで産んだことになっているが、その出産記録が怪しいという噂が流された。

 こんども同じように、ハリス大統領候補の出生時、インド人の母親の学生ビザが失効していたので、不法滞在のまま出産したはずだという噂が出てきた。

 オバマの疑惑もハリスの疑惑も、同じように憲法上、大統領になる資格がないのではないかという、真実が分からないままの噂を拡げるのも、米国政治の1面である。

 今のところ、ハリスが8月19ー22日の民主党全国大会までに、通称ランニング・メイト(伴走者)と呼ばれる副大統領候補に誰を指名するか、またその人物を巡る噂の数々がまき散らされるであろうと期待(?)している段階だ。
(おおいそ・まさよし 2024/07/31)


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