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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.308
   by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

令和6年11月29日

      驚くほど短かった戦間期

 米国の次期大統領にトランプ前大統領の返り咲きが決定し、これで米中露三大国(=核大国)に揃って、独裁的な指導者が君臨することになった。

 これは決して偶然ではない。第1次世界大戦のあと、ソ連にスターリン、ドイツにヒトラー、イタリアにムッソリーニ、というような独裁者が現れ、少し強権の程度は下がるが、英米にもチャーチル、ルーズベルトという強いリーダーが登場した。

 こうした類似に注目して、識者の間で、現在は戦間期か、それともすでに大戦期に入っているのかという議論が始まっている。

 戦間期というのは、英国の国際政治学者E・H・カーの『危機の二十年 1919-1939』で知られているように、第1次世界大戦で完膚なきまでに敗北したドイツが、わずか20年で再び英米仏などを相手に、全面戦争を挑むまでになった時間を指している。

 なぜ、そんな短期間に、そんな奇跡的なことを、実現し得たのか、いまではとても信じられないだろう。

 では、第2次世界大戦のあとはどうなったと考えるべきか。それが問題なのである。

 来年はちょうど80年になるというので(1945-2025)、平和な80年と考える人が多いかもしれない。
 しかし、国際問題の識者は、45年の終戦時にはすでに、米ソが対立する「冷戦」が始まっていた事実を重視する。

 冷戦は、米ソの間や、先進国間の直接の衝突を避けながら、世界各地で熱戦(代理戦争)を繰り広げ、1991年12月のソ連崩壊でようやく終結を見た。

 とすれば、完膚なきまでに崩壊し、ソ連邦から丸裸のロシア(形式は連邦)になった1992年が、戦間期の始まりとみなすのが正しい。

 そうなると、そのロシアがプーチン独裁者の指導の下に息を吹き返し、ウクライナの領土クリミア半島を軍事占領したときに、戦間期が終わって大戦期に突入したということになる。
 それが2014年2−3月なので、戦間期はほぼ22年と短く、ヒトラー指導下の20年と大して変わらないのである。

 ヒトラーは1938年、チェコスロバキアを占領しても英仏が強く出ないので、翌年、スターリンと密約を結び、ポーランドに独ソが東西から侵入して分割占領した。
 それで英仏も宣戦布告に追い立てられ、第2次世界大戦が始まった。

 プーチンはクリミア占領に国際社会が強く反発しないのを見て、8年間準備してベラルーシ(旧名白ロシア)と結び、同国国境からウクライナに電撃侵入し、首都キーウを制圧しようとした。

 ちなみに日本は、安倍首相がプーチンに騙され、北方領土問題で話し合える相手だと期待したため、クリミア併合を強く非難しなかった。安倍氏の失点だろうか。

 さて、ロシアと中国、それに米国が加わった3人の独裁者が、それぞれ何を最終目的にしているのかが、今後の世界を予測するカギとなるだろう。

 プーチンの目的が、まず旧ソ連邦の再建であり、その先にロシア帝国のピョートル大帝やエカテリーナ女帝の栄光を見据えていることは、すでに知られている。

 また習近平の目的は、共産党王朝の始祖である毛沢東を超え、「中華民族の偉大な復興」を実現するというスローガンを掲げている。
 これは最大の版図を誇った清朝第6代の乾隆帝や、鄭和の艦隊をアフリカまで派遣した明朝永楽帝の時代の再現を夢見ていることになる。海軍力の増強に邁進している理由がよく分かる。

 この2人に比べると、トランプ次期大統領の目指すところは明らかでない。「偉大なアメリカを取り戻す(Make America Great Again)」と叫んで支持者を熱狂させたが、高関税で輸入を抑え、移民を制限して税金の無駄遣いを減らすことが、どうして偉大なアメリカになるのか誰も理解できない。

 前者に関しては、高関税で世界恐慌を拡大させた「スムート=ホーリー法(1930年関税法)」という苦い教訓がある。
 後者に関しては、日本移民を実質禁止した1924年の「割当移民法」などが、米国の反省すべき歴史の教訓になっている。

 この戦間期が米国にとっては内向きの低迷期だったわけで、「偉大」とは正反対の時代だった。

 トランプは根っからの不動産業者であり、特に日本がバブル期にマンハッタンのロックフェラー・センターを始め、米国自体を買い占める勢いを見せたときに、何かを悟ったのではないかと言われている。

 つまり、潜在意識的に、日本を始めとする外国の経済力を拒絶する方向で、すべてを判断しているかもしれないのである。

 日本は、安倍首相がたまたまトランプとウマがあったことで救われたが、こんどはそうはいかないと覚悟するべきだろう。
(おおいそ・まさよし 2024/11/29)


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