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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.309
   by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

令和6年12月29日

      韓国政治の不安定を本質から理解する

 今月3日夜に突然起きた韓国の「非常戒厳」宣言に始まる大混乱は、韓国が日本とは全く異なる政治社会であることを、改めて実感させてくれた。

 この理解の基本は、「王朝交代」「科挙」「両班(やんばん)」の3点セットで説明できるのである。

 「王朝交代」は、本家の大陸がお手本だ。1つの王朝が衰退して滅ぶと、新王朝は前支配者がいかに悪逆非道を行ったかを誇張して、つまり虚偽の限りを尽くすことによって、前王朝を倒したのが「天の声」だったと民衆に納得させようとする。
 
 現在の中国共産党王朝は、相手である前王朝を倒して政権を奪取したわけではないので、代わりに旧日本軍と戦後の日本を故意に重ね合わせ、「悪逆非道」の存在に置き換えているのである。

 韓国の悲劇は、民主化と称して、大統領の任期を5年に限り、再選不可としてしまったために起きたものだ。

 新王朝を目指す勢力は、5年の約半分過ぎたあたりから、次期政権として目立つ必要があるため、現政権に対して公然と激しい攻撃を開始する。

 そして王朝交代(特に保守Vs.革新)が実現すると、新政権は前大統領やその親族を逮捕して、強引に有罪、時には実刑判決に持っていくという繰り返しになっている。
 
 今月の戒厳令騒動は、野党の「共に民主党」が議会の3分の2を占める多数であることを悪用し、閣僚など多数の政権幹部を弾劾する法案を乱発したり、政府予算を人質にとって、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領に、政権を投げ出させるように仕向けたために起きたと考えられる。

 すなわち、野党側が現大統領を追い詰めすぎたわけで、これは野党側のリーダーで、次期大統領を狙う李在明(イ・ジェミョン)代表の特異な性格と、自身の抱える複数の裁判時期との兼ね合いで、コトを急ぎすぎたのだろうと推測しうるのだ。

 いわば、今月の騒動は、大統領の任期を5年に固定した欠陥が、最も悪い形で明らかにされたという意味で、日米欧の近代的「議会民主制」を見習って反省すべき事例なのである。

 また、韓国社会の全体が、民主化の隠れ蓑の下で、かつての両班(=貴族官僚)を大幅に拡大したことが、健全な政治文化を生み出せないままになっていることにも注目したい。

 高麗、李氏朝鮮王国時代の両班は、人口の3%程度の少数貴族だったと言われるが、現代に甦った両班は、官僚、政治家、大学教授、医師、法律家、財閥一族とその企業社員、さらにはジャーナリストなどメディアまで含まれる。

 つまりこれらのエリート層が「上級国民、1級国民」と認識されていて、総人口の3割にも達すると言われている。

 そうなると、かつての両班と違って、誰でも必死で努力すれば上級国民になれる、という状況になったわけで、それが日本でもよく知られている受験地獄の激化を生んでいるのである。

 いい大学を出ることが絶対条件になるので、小学校から勉強漬けの毎日が続く。本家本元の「科挙」の再現と言えよう。
 大学の統一入学試験の時は、毎年、遅れそうになってパトカーが運んでくれたとか、上空を飛ぶ定期便が会場の遠くにルートを変更する、といった話題が日本にも伝わってくる。

 数年前に、名門ソウル大学の法学部教授が、娘を医学部に入れるためにあらゆる不正行為を繰り返し、自分は政権入りして法相にまでなった(2019年)という、笑っていいのかどうか迷うような事件を起こした。

 この人物は、裁判を回避するため政党を作って国会議員になり、次期大統領を目指すと公言したが、ようやく今月になって有罪実刑が確定し、失職した。

 このほかにも、政治家が弁護士や検事などの法律専門家である事例が多く、法律というものの概念が、日本とは大きくズレていると考えざるを得ない。

 すなわち、日本では「法律は守るもの」だが、彼の国では「法律は利用(悪用)するもの」という感覚なのだろう。

 もともと朝鮮半島は大中華(正しくはシナ文明圏)の一部だったが、韓国はその本家の悪しき伝統を受け継いで、より発展させているようだ。
(おおいそ・まさよし 2024/12/29)


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