国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.310 by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表) 令和7年01月30日 トランプの領土拡大欲求は日本に好都合 昨年11月のコラムで、トランプ次期大統領の目指すところは明らかでない、と指摘したが、その後から就任に至るまでの間で、彼の本音と本性がすべて明らかになってきた。 トランプは、自分を「タリフ(関税)マン」だと高言し、何よりも関税を振りかざして輸入を抑え、代わりに米国に投資するように仕向け、衰退した製造業を復活させると繰り返している。 しかし、すぐ分かるように、そんなことが実現するとしても、10年、20年、それ以上はかかる長期的な話であり、4年の任期で実績を示すことは不可能だ。 それに、関税をかけるという行為は手段であり、大統領として実現したい「目的」ではない。 その目的が、実は「領土拡大」という大目的だということが、本人の口から、世界に向けて吐き出されたのである。 就任前から、まず、カナダのトルドー首相に「51番目の州になれ」「州知事のほうが似合ってる」などとブラフをかけた。 そして次に、デンマークの自治領グリーンランドを、米国が購入し所有しなければならないと強要し、さらに、パナマ運河を取り戻す必要があると公言した。 そして、いよいよ今月20日の就任演説で、「(米国の)富を増やし、領土を拡大し、都市を建設し、期待を高め、新たな美しい地平線に米国旗を掲げる」と宣言した。 これは、まさに、かつての列強(日本含む)が、本気で夢見た帝国主義の発想に他ならない。時代錯誤も甚だしいが、中国を睨んだ軍事的戦略として見れば、筋が通っていると言えないこともない。 カナダ全部はともかく、グリーンランドとパナマ運河は、スエズ運河やジブラルタル海峡と同様の、地球的「要衝」だから、自分の支配下に置きたいと考えるのは理解できる。 そこに、日本としては、つけ込む余地があると言えよう。重要なポイントである。 どうするかというと、石破茂首相がトランプと会って、「ハワイ州に沖縄を入れて、太平洋州と改称したらどうか」と持ちかけるのである。 トランプ大統領は、沖縄も世界の要衝の1つで、特に中国に対する抑止力として最も重要だ、ということはよく知っているだろう。 そこまで米国領土を拡大できるという提案を受けたら、トランプは石破首相に、故安倍晋三首相を何倍も上回るほどの好感を抱くに違いない。 これは、どうやってトランプを日本大好きに取り込むか、という頭の体操である。 実は、ハワイ州と沖縄は人口がほとんど同じ(140数万)なので、形式上ハワイ州に吸収されても、実態は「対等合併」であり、ハワイ州在住の日系人(約21%)と合わせれば、日系住民が主導権を握れることになる。 その上で、新「太平洋州」の人口がほぼ2倍となるので、連邦下院議員と大統領選挙人の人数が大幅に増える。 沖縄県民は米国民となるが、希望者に対しては無条件で日本国籍を付与することにする。つまり、現在は認められていない二重国籍を、法律を改定して特例を設ける。 もともと、世界的に二重国籍は珍しくはなく、カルロス・ゴーンのように三重国籍も実際にあるので、日本のほうが世界化するわけである。 もちろん最終決定は沖縄県民の住民投票によることになるが、沖縄は明治維新まで「両属」(薩摩藩と清国)だったので、あまり心理的抵抗は強くないかもしれない。 加えて、現在の玉城デニー県知事は父親が米国人なので、県民の意思は思いのほか賛成が多くなるかもしれない。 グリーンランドも、親会社(?)のデンマークは「売り物ではない!」とカンカンだが、住民の中には、「まず独立、そして米国と交渉」という駆け引きを目指す動きもあるという。 日本としてのメリットは、極めて大きいと考えられる。なぜならば、内政問題で最も深刻な沖縄(基地)問題を、そっくり米国に肩代わりさせることができる。 また、尖閣諸島も米国領になるので、中国は手を出せなくなる。日本の海上警備は、ずっと余裕を持つことができる。 台湾もフィリピンも、これで大いに安心して、日本の英断に感謝することになるだろう。 さらに、もうひとつ。太平洋州が実現しても、当分の間は沖縄に自衛隊基地、日本本土に米軍基地が存続することになるので、お互いに平等な地位協定を交換することになる。 これは、かねてから石破首相の持論だった地位協定の改定が、自動的に実現するということに他ならない。 石破さん、トランプ大統領に直接、「沖縄の美しい地平線に米国旗を掲げませんか」と誘いかけるチャンスですよ。 (おおいそ・まさよし 2025/01/30) |