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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.238
   by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成31年1月30日

       易姓革命と容共統一幻想のムン政権

 まさに狂ったように日本を敵視する韓国をどう理解したらいいか。ここに分かりやすい視点を提供してみたい。
 
 重要な点は、長期的すなわち歴史的な評価と、短期の政治的目標を区別して分析する必要があるということである。

 まず歴史的に見ると、ムン・ジェイン政権は世界が「近代」に入って以来、すなわち日本の明治維新以来、初めて出現した「易姓革命」の政権である。
 
 易姓革命というのは中国や朝鮮の思想で、支配者があまりに暴虐非道なので「天の命が革(あらた)まった」として、新たに徳を備えた支配者が登場するという論理である。

 新たに支配者となった者は、自分が前支配者を倒したことを百パーセント正しいと主張するために、嘘八百を書き並べた「正史」を書いて残そうとする。

 つまり「正史」とは、正しい歴史という意味ではなく「自分が正しい」という意味である。

 四字熟語として知られる「酒池肉林」とか「苛斂誅求」「焚書坑儒」、あるいは諫言した忠臣をなますにして他の家来たちに食べさせたというような、日本でもよく読まれた漢民族の歴史物語は、前支配者を徹底的に貶める目的で書かれたものだ。

 それが分かると、中国共産党の政権が国民にどこまでも日本を憎ませる宣伝を続ける理由も、韓国の歴代政権が繰り返し日本を攻撃してやまない理由もよく分かるだろう。

 韓国では、軍人政権であろうと文民政権であろうと、前大統領が後任によって貶められるという歴史を重ねてきた。軍人2代は死刑判決と無期判決。ムン・ジェインが仕えた左派の盧武鉉は自殺に追い込まれた。

 これは「易姓革命」の尻尾を引きずっている証拠なのだが、ムン現政権になって尻尾どころか易姓革命の本体が姿をあらわしたのである。

 現政権はいかにも選挙で選ばれたように見えるが、実際はローソクデモでパク・クネ大統領に圧力をかけて「民意」を押しつけ(天命思想)、国会と憲法裁判所で弾劾を成立させるという方法で、一見合法的だが、実際には国民感情という武器で初めて支配者を倒したのである。

 そして、易姓革命の定石通り、前大統領を獄につなぎ、さらにその前任者や父の朴正煕大統領の時代に遡り、さらにはその大元である日本統治時代を全否定しようとしているのである。

 この壮大な歴史の書き換えと大掃除の企てに比べれば、いわゆる「慰安婦」問題など小さい話のように思えてくるほどだ。
 大統領経験者2人と前大法院長(最高裁長官)を逮捕拘留している異常な政権を、国際社会がなぜ問題にしないのか不思議だ。

 昨年11月、明らかにムン大統領の意を受けた大法院(最高裁)が、日本の韓国併合(1910)を不法と断定したので、戦後の日韓国交正常化を実現した基本条約と請求権協定も、韓国としては初めから「効力がない」ことになる。

 このとき日本も半島に残した資産をすべて放棄するとしているので、取り決めが無効だというなら、日本も韓国に対して請求権が生じることになる。

 韓国にとっては自縄自縛ではないかと思われるが、そんなことに頭が行かないほど、ムン大統領は歴史の書き換えに夢中になっているようだ。

 次に、ムン大統領の短期的な政治目的を、ムン自身の立場になって考えてみると意外に簡単なことが見えてくる。

 それは、大統領を目指した選挙公約で、南北の両体制を残したままで「高麗連邦」を実現するという目的である。

 一気に南北統一というのは左翼政治家としても困難だと分かっているので、北朝鮮とは基本的な利害で一致したところで、連邦国家を宣言したいというのが本音だと思われる。

 そのためには北を敵から外し、どこかの国を新たな強敵として国民に認識させなければならない。

 その強敵に、韓国民が憤激するような振る舞いをさせ、その瞬間を捉えて北の金正恩委員長をソウルに迎え、連邦国家の成立を宣言する。国民は「南北共通の新たな強敵」に対する抑止力として、北の核・ミサイルを暗黙のうちに容認する。

 ムン大統領は、あと3年、実質2年ほどの内に、このシナリオを完成させなければならないと計算しているだろう。
 連邦国家を実現できれば憲法を改正して、現在の任期5年で再選不可という規定が北朝鮮のトップと釣り合わないので、任期延長か再選可能ということになる必然性が強くなる。

 日本を怒らせて何の得があるのかという声は韓国内では少数で、国民感情を武器に使う手法はますます有効に機能している。

 それどころか、日本の国家公務員である一橋大学准教授の韓国人「専門家」が、「憲法改正という政治目標のため、中国・北朝鮮に代わる『新たな敵』を安倍政権が必要としている」と、まるで正反対の見方を堂々とニューズウィーク日本版に書いている(1/29号)。

 日本ではそんな曲解は野党ですら皆無と言っていいが、こういう悪宣伝は韓国の得意芸なので、あっという間に世界中にこれが拡散される恐れが強い。

 韓国の事実逆転戦術は、日本の哨戒機に火器管制レーダー(対空砲・ミサイルの狙いを固定)を照射したことを指摘されると、言い訳を二転三転させたあと、日本機が低空で威嚇飛行したと逆に謝罪を要求し始めたことでも繰り返された。

 ムン政権が日本をどんどん怒らせて、何らかの強い対応を引き出すことを狙っているとすれば、かつて米国が日本に最初の1発を撃たせるワナを仕掛けた「ルーズベルト方式」を思い出さざるをを得ない。

 それが日本海の空と海に及んできたことは、極めて危険な状態に進んできたと判断しなければならない。なぜならば、韓国政府が国民の感情を最大限に刺激するためには、竹島を持ち出すのがいちばん手っ取り早いからである。

 また日本側は、哨戒機はルーティーンの任務では爆雷などを積んでおらず、非武装だから低空で威嚇飛行などしたら自分が危ないと、当たり前の説明をして理解を求めているが、それが逆に利用される恐れがあるのだ。

 すでに韓国側が示唆していることだが、低空で特攻攻撃、つまり神風(カミカゼ)体当たりをしてくる構えを見せたので対空砲・ミサイルで迎撃したという理屈を用意していると見るべきなのである。

 世界の常識として、軍人は最も戦争をしたくないと考える人々だというが、韓国の政治家はそれと正反対の世界に住んでいるのかもしれない。

 韓国の与党国会議員で国防委員長の要職にある人物が1月18日、「安倍首相が国内政治のために国際摩擦を助長している。(朝鮮出兵の)豊臣秀吉と重なって見える」と奇想天外な言いがかりを公式に発表した。

 つまり、日本を挑発する韓国上層部は、日本がまた朝鮮半島を侵略する意図を見せたと、国民にマインドコントロールし始めたわけである。

 韓国民は幼稚園から「トクト(独島、日本の竹島)は我が領土」という歌を覚えさせられ、テレビなどのメディアや学校教育ですべて同じ愛国作り話を刷り込まれて育っている。
 日本が武力で竹島を奪いに来るという官製デマを、容易に信じる素地がすでに出来上がっているのである。
 
 以上のように長期の歴史的考察と、短期の政治的目標を分けて理解すると、いま何が進行しているのかがよく見えてくるだろう。

 この状況に対処するために一番大事なことは、日本が苦手な海外への積極的な広報活動である。
 単に外務省のホームページに載せるだけではダメで、海外公館の外交官による広報行脚と、日本駐在ジャーナリストに対し、面と向かって、頻繁に、情報を提供する努力が必要だ。

 その情報は、上に挙げたような歴史の事実の説明と、客観的なデータに基づくものでないといけない。その結果として、韓国側の広報が正しくないと分かるようにしなければ意味がないのである。(おおいそ・まさよし 2019/01/30)


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