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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.253
   by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

令和2年4月28日

        お酒いただきたい小池都知事?

 コロナ騒ぎが続く中、世界の指導者たちのコミュニケーション能力が問題になっている。
 ダントツ評判がいいのは米ニューヨーク州のクオモ知事で、次ぎに英独仏のトップが並ぶ。逆に毎日の話題になるほど評価が低いのは、トランプ大統領や安倍晋三首相である。

 日本の場合は、有事に対処する法体制が不備、というより憲法が邪魔して国民への強制ができない国なので、トランプや習近平、プーチンなどの強い統治と比較するのは筋違いと言えよう。

 しかし、それにしても、安倍首相の記者会見がお粗末だという印象は否めない。テレビのワイド番組でも取りあげていたが、顔の斜め左右に置かれた半透明のプロンプターに原稿が流れ、それを読んでいるだけなので、どうしても本気度が感じられない。

 クオモ知事やマクロン仏大統領らがまっすぐカメラを見つめながら話しかけるのに対し、安倍首相は、絶えず顔を左右に振りながら、原稿を間違えないように読んでいる。

 これでは、誰かの振り付けにしたがっているだけの総理大臣なのかと、不信感を抱かれても不思議ではない。側近にパブリック・スピーキングの専門家はいないのか。

 また、強制でなく「要請」するしかないので、なるべく丁寧にお願いしようとして過剰な丁寧語を、聞き苦しいほど多用することになる。

 東京都の小池百合子知事はその典型で、23日のいわゆる「12日間のステイホーム」を要請する記者会見で、「お酒、いただきたい」と発言した。

 酒でも飲まなきゃやってられない、と本音を言ったのではなく、「お避けいただきたい」という意味だったらしい。

 強く要請する趣旨で記者会見しているのに、こういう言い回しでは逆に弱く聞こえてしまうということが分かっていないのである。

 どうして明快に、単純に、「避けて下さい」と言わないのだろうか。

 首相を始めとして、多くの政治家は「1人ひとり」でいいのを「おひとりおひとり」とか、普通に話したというだけのことを「申し上げた」と言うとか、「○○させていただく」というような政治家用語を多用する。

 「国民の皆さま」は「皆さん」のほうが自然だ。外国人に必ず「のカタガタ」と付けるのは、逆の意味の差別語ではないだろうか。

 国語に敏感な言論人が少なくなったのかもしれないが、ワイド番組の司会に芸能人が進出したために、日本語の基本がめちゃくちゃになったように思われる。

 日本語の伝統では、「有名人・外国人・歴史上の人物」には敬称を付けないことになっている。

 しかし某番組の司会者が、誰彼かまわず「さん」や「君」を付けて呼ぶのが拡がってしまった。
 たしかに「トランプさん」は日本語で発音しやすい。では、サンローランやローランサンに「さん」を付けて、番組内で連呼できるかどうか。

 東日本大震災のあとから、外国人にも分かる用語が必要だという議論が始まっている。たとえば、「高台に避難して下さい」と呼びかけても、日本人には普通に分かるが、外国人には「高台」も「避難」も分からないかもしれない。
 分かっても「いつ、どこに、どうやって」にとまどうだろう。

 そこで「すぐ高いところに逃げろ」とか「山に走って登れ」というように、具体的かつダイレクトに、命令調で指示する必要があるのではないかという認識である。

 新型コロナウィルスに対する施策でも同じことが言える。たとえば、「密閉・密集・密接」を避ける「3密」が流行語になっているが、これも「漢字の感じ」を読み取る日本人を前提にしているなとすぐ分かる。

 漢字を読めない外国人には全く通用しないということに、思いを致していないのである。

 この「3つの密」は、どれも英語でパッと分かる単語がないので、「Social distancing ソーシャル・ディスタンシング」(距離を置く)のほうが世界標準だと言えるだろう。

 さらに、これでも婉曲表現なので、もっと正確に「Physical distancing」(身体的距離を置く)というべきだという主張もある。

 余談だが、某新聞のユーモア投稿に「シャル・ウィー・ディスタンス?」というのがあった。こういうセンスをぜひ、首相や都知事に持ってもらいたい(いただきたい?)ものだ。
(おおいそ・まさよし 2020/04/28)


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